忍者ブログ

ちか と つる

「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。

2025/02    01« 1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  »03
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

いつも拍手ありがとうございます!
楽しんでもらえてるんだなーってわかって、すごく嬉しいです(*´ω`*)

学パロのチカツルで、「はがゆい君たちへの七題2」をやりました。
ピクシブでは7題一気上げしましたが、ブログだとかさばりそうなので1題ずつ出していこうと思います。
ちなみに、特にこれという設定の下に書いたわけではないので、統一性はありません。それぞれ別物として見てもらった方がいいかもしれません。

配布元:サキサカユキジ様/jachin

≪ 1.ほんとは、ほんとは、ほんとは、 ≫ しずくいし
 人通りのない住宅街の一角、塀が続く狭い道路の片隅で。
 眼前を睨み付けながら、雑貨屋に寄りたいといつもの下校ルートと違う道を来たことを、鶴姫は後悔していた。
「よぉーーう、お嬢ちゃん。この前は随分と恥掻かせてくれたなァ?」
「今日はその礼に来たぜ~。ついでにそっちのお姉ちゃんにも付き合ってもらおうか」
 普段通りに帰っていたなら、あるいはこの事態を避けられていたかもしれない。
 隣に視線を走らせれば、下卑た笑いを浮かべる男達に怯えた市が、俯き震えている。

 ――――これは何としてでも、わたしがお市ちゃんをバシッと守らなくては!

 決意を新たにした鶴姫は、市を庇うように一歩前に踏み出した。
 進行方向を塞ぐように立ちはだかるのは、二人組の男。制服を見るに隣の高校の生徒だが、その顔には見覚えがあった。数日前、同じ学校の生徒をかつあげしようとしていたのを注意したばかりだ。
 その時は元親や政宗といった腕っ節の強い男連中が一緒だったので難なく追い払ったのだが――――どうやらそれ以来、ずっと根に持っていたらしい。こうして仕返しできるチャンスを伺っていたというわけだ。
 しかし女子だけになる状況を狙うとは、まったくもって卑劣極まりない。おまけに関係のない市まで巻き込んで。
 鶴姫は胸の奥底から湧き起こる怒りと罪悪感に唇を噛み、それでも冷静さは失うまいと必死に頭を働かせて、傍らの市へと小声で呼び掛けた。
「お市ちゃん、ここはわたしが引き付けますから、先に逃げてくださいな」
「え……でも……」
「それで、不良さ…元親さん達を呼んできてくれませんか?」
「でも……鶴ちゃんは、どうするの……?」
 紺瑠璃色の瞳が、心許なげに揺れる。
 そんな市を安心させるように、鶴姫はえへんと胸を張ってみせた。
「大丈夫、わたし足には自信あるんです!あんな奴ら、ビューンとひとっ飛びで撒いちゃいますよ♪」
 嘘ではない。腕力で劣る鶴姫に勝算があるとすれば、それは走って逃げ切ることだと思っていた。
 事実、鶴姫の足はそこらの男子より速かったし、それは市も知っているはず。
 それでもしばらく迷っているようだったが、やがて緊張に色を失った唇がきゅっと真横に引き結ばれた――――覚悟を決めたようだ。
「……すぐ、戻ってくるね……!」
「おおっと、そうはいかねーどわっ!?」
 そう言って駆け出す市の背中に、男Aの魔の手が伸びる。しかし鶴姫がひょいと出した足に躓いて、彼は派手に転がった。
「てめぇ…っ!舐めた真似してくれるじゃねーか!!」
「あらら?すみません、まさかこんなところを人が通るとは思いませんでした☆」
 一瞬で膨れ上がる怒気。
 二人分の意識がこちらへ集中する。これでいい。

 意図のあるなしに係わらず、こういう血の気の多い相手を煽って怒らせるのは得意だった。





 さぁ、あとはひたすら走って逃げるだけである。男A・Bから逃げるのは、それほど難しくなかった。
 というのも、普段から部活動に勤しむこともなく、日々不摂生な生活を送っているのだろう。とにかく彼らはすぐバテる。息が上がる。度々立ち止まっては息を整えるのに手間取るので、鶴姫は自慢の走力を発揮するまでもなく、余裕で先行することができた。
 しかしあまり差を広げ過ぎて市にターゲットを変更されても困るので、姿を見失われそうになると立ち止まって距離が縮まるのを待った。時には自ら近付いて「だらしがないですよ♪」と声を掛ける。そうすると男たちはまた躍起になって、鶴姫を追いかけた。
 そんなことを幾度か繰り返すうちに、ふと鞄の中から聞き慣れた音が聞こえて、鶴姫は走りながらちらと後ろを振り返った。男たちは道端でへたって、何度目かの休憩中のようだ。
 その差、ざっと30メートルほどだろうか。鶴姫は彼らに未だ動き出す気配がないのを見て、徐々に歩調を緩めやがて足を止めた。
 携帯を取り出すと、繰り返されるメロディと点滅する光が気持ちを急かす。もたつきながら開いた画面には、『不良さん』の文字が踊っていた。
「もしも」
『鶴の字ッ!無事か!?』
 潮焼けしたような低い――――しかしいつもより上擦った声が、言葉尻を奪って耳を打つ。
 つい数時間前に聞いたばかりだというのに、随分と久しく感じるのは何故だろう。
「はい、大丈夫です!」
『そうか…!もう撒いたのか?』
「いえ、まだですけど距離は結構あるので……お市ちゃんは無事ですか?」
『ああ、野郎共が保護してる。長政に迎えに来るよう言っといたから、心配ねえよ』
「良かった…!」
『で、今どこにいんだよ?』
「どこ、と言われましても……」
 鶴姫は困って、眉根をきゅっと寄せた。
 行動範囲が元々あまり広くない上に、闇雲に走ってきたので今自分がどこにいるのか分からないのだ。
『とりあえず、何か目に付いたモン言ってみろ』
 言われて辺りを見回してみる。
 家。生垣。ゴミステーション。
「あ、金木犀」
『それじゃわかんねーよ!!ほら、アレだ、電柱!住所書いてあんだろ』
「えと、ちょっと待って下さい……あ、ありました!**3丁目、です」
『**3丁目か、こっからそう遠くねーな。もちっと何か目印になる情報が欲しいとこだが』
 目印、目印……呟きながら遠くに目をやると、通りの向こうに鬱蒼とした緑。そしてそれに隠れるように、朱色の柱がちらりと見えた。
「あ、なんか鳥居みたいのが見えます!」
『鳥居……**神社か!よっしゃ、大体わかった。今からそ』
「……ッ!」
 しかし、元親の言葉を最後まで聞くことはできなかった。
 急激に近付いてきた気配に振り向けば、目の前に男B。咄嗟に躱して捕獲は逃れたものの、接触した拍子に携帯が飛んで地面を滑っていった。
 拾っている余裕はない。
 投げかけられる怒声と腕にかかった手を必死に振り払い、鶴姫は携帯を置いて再び走り出した。





 途中で途切れてしまったものの、元親の言わんとしていたことの予測は容易い。
 今から**神社に向かう、と――――つまりそこへ行けば何とかなる、その一心で鶴姫は走ったが、間近まで迫られた動揺からか足がもつれて思うように動かず、先ほどまでの余裕は消し飛んでいた。
 真後ろで聞こえる息遣いと足音、そして限界まで膨れ上がった怒気は殺気へと変わり、鶴姫の華奢な背を容赦なく襲う。
 とうとう肩を捕らえられるのを気配で感じて、鶴姫は覚悟を決めた。
 右腕をくの字に固めた状態で唐突に足を止め、腰を落とす。すぐ後ろを走っていた男の腹に肘が入り息が詰まったところを、振り向きざまに顎を掌で突き上げた。
 昏倒する男B。ここまでは相手の勢いを利用できるので非力な鶴姫でも対応できる。
 問題はこの後警戒してじりじりと間合いを詰めてくる男Aを、どう切り抜けるかだ。せめて元親が駆けつけるまでの時間だけでも稼がなければ。
「よくも俺たちをコケにしてくれたな……ぜってー許さねえぞこのアマぁ……っ!!」
 疲労と、それを上回る強い怒りが綯い交ぜになった剣呑な目が鶴姫を射抜く。
 瞬間、僅かに身体を走った感情に必死に蓋をして、鶴姫は臨戦態勢を取った。
 殴りかかってきた右腕を左腕で受け流す。受けた箇所が重みにビリビリと痺れるのに構わず、続いて繰り出された左のアッパーを上体を逸らして避けた。
 右左と飛んでくる拳の横っ面を掌で押し出し、力を外に逃がすことでひたすらやり過ごす。すると、当たりはするもののまるでダメージを与えられないことに苛立ったのか、攻撃に蹴りが混じり始めた。
 足元を掬われないよう、注意を払いつつの攻防。こちらからも足払いを狙ってみるが、体格差は如何ともし難く、あまり効果はなかった。
 膝蹴りを後ろに飛び退りながら両手で受け止め、勢いを殺す。次いで大振りしてくる拳を屈んで躱したところで、男Aの死角に入ったのを横目に確認して、鶴姫は一気に走り出した。
 防戦一方で踏ん張り続けるのにも限界がある。神社とは反対方向になるがこの際仕方ない、遠回りして行こう。
「……きゃあっ!?」
 が、突如鶴姫はその場に倒れ込んだ。
 石に躓いたわけでも、足がもつれたわけでもない。左足首を何者かに掴まれている。
「逃がすかよ……たっぷりお礼をしねえとな……!」
 そう言って鶴姫の足をぐいと引っ張ったのは、先ほど倒したはずの男Bだった。
 引っ張られた拍子にスカートが捲れ上がり、太腿が露になる。慌てて隠したものの、舐めるように絡みつく視線に鳥肌が立った。
「は、離してください!ただじゃおきませんよ!」
「そうだな……ただじゃ済まさねえ。俺としたことが、痛めつけるよりもっと楽しいことがあるのを忘れてたぜ」
「確かこの近くに、潰れたゲーセンがあったよな」
「そこに連れ込んでお楽しみか、いいねぇ」
 舌舐めずりせんばかりの声音。卑猥な欲望を露骨に向けられ、背筋が凍る。
 早く逃げなきゃと思うのに手足が氷のように固まって、心音だけが身体の中で異様に響いた。
 手が伸びる。
 影が落ちる。
 鶴姫の震える唇が、彼の名を形作った。



 その時、地面に何か重いものを投げ出す大きな音が聞こえ――――そして人の体が風に攫われたコンビニ袋のように宙を舞うのを、鶴姫は生まれて初めて見た。



 塀に強か叩き付けられた男Aが、一言も発しないまま白目を剥いて気絶する。
 驚いて腰を浮かせた男Bは、顔面に強烈な一発を食らって撃沈した。
 あっという間の出来事。

「大丈夫か、鶴の字!?」
 
 カラカラと、自転車のタイヤが空回る音がする。
 呆然と見上げた視線の先に、元親の姿があった。
「は……はい……」
 上手く頭が働かない。上の空で返した答えは、随分と頼りなく聞こえてしまったかもしれない。
 元親は肩で息をして、必死の形相でこちらを見ている。どれだけ全力で駆け付けてくれたかが窺い知れて、それを認識した瞬間にツンと痛んだ鼻の奥、込み上げた涙の予感は、
「バカヤロー!!この考えなしの田舎モンが!!」
 投げ付けられた罵声にひゅっと引っ込んだ。
「な……考えなしとは何ですか!!わたしちゃんと考えました!!」
「考えてコレかよ!?それでこんな目に遭ってりゃ世話ねーぜ!」
「お市ちゃんも無事だったし、わたしだって何ともありません!」
「は!完全な結果論じゃねえか!」
「じゃあどうすれば良かったって言うんですか!?二人で逃げたって捕まるだけです!」
「そうじゃねえ、そういうことを言いたいんじゃねーよ!!」
「意味が分かりません、なん……っ!?」
 売り言葉に買い言葉、白熱する舌戦。いつもならこれが小学生レベルのしょうもない口喧嘩へと変化しながら、延々と続いていく。
 しかしそれに何の前触れもなく終止符が打たれたのは、元親が突然鶴姫を掻き抱いたからだ。

「………心配させんなバカ」

 耳元でぽつりと零れた呟きが、大地に染み入る水のように鶴姫の胸の奥に浸透していく。
 心地良い熱に包まれ、張り詰めていたものがゆるゆると解けていく感覚。
 鶴姫はその小さな手を、元親の背中へと遠慮がちに伸ばした。

 ――――携帯越しに声を聞いた時、ほんとは凄くほっとした。

 伸ばした先で、制服の布地をきゅっと握ってみる。

 ――――危険な空気を纏う男たちと対峙した時、ほんとはとても怖かった。

 呼応するように、鶴姫を抱き締める力が強くなる。

 ――――彼の姿を目にした時、沸き起こった感情はいろいろが相まって上手く言えないけれど、ひどくあたたかくて。ほんとは声を上げて泣いてしまいたかった。

 今度こそ溢れ出た透明な涙が、柔らかな頬を伝う。
 恐怖からの解放と、漸くもたらされた安堵は鶴姫を子供のようにさせて。
 元親の腕の中で、彼女は大いに泣いたのだった。





「お前、明日から勝手に帰るの禁止な」
「ええーっ、なんですかそれ!?」
 ひとしきり泣いてすっかり元気を取り戻した鶴姫が、元親の後ろから身を乗り出すようにして抗議する。急に動いたので自転車が少しよろけて、鶴姫は慌てて元親の腰にぎゅうとしがみ付いた。
 倒れ込んだ際に両膝を擦り剥いた鶴姫を荷台に乗せて、自転車は川沿いの道を走っている。家康からの借り物だというそれは、乱暴に扱ったせいで所々塗装が剥げ、歪んでしまっていた。
 しかし元親に気にした様子はない。
 機械好きな彼のことだ、後で自分で直すつもりなのかもしれない。その時は手伝わせてもらおうと考えながら、鶴姫は何故か黙りこくった元親を突いて先を促した。
「あー、げほん」
 妙な咳払い、一つ。
「だからな、あれであいつらが懲りてくれりゃあいいんだが、ああいう手合いはしつけえからな……。そのうち新手を連れて、また仕返しに来るぞ」
「え……」
 これできっちり片が付いたものだと思い込んでいたので、思いがけない指摘に絶句した。
 けれどよくよく考えてみれば、そういうものなのかもしれない。今日のことにしても、先日の仕返しだったわけだ。
 暴力は連鎖を呼び、どちらかが諦めるまでループする。その輪の中にしっかり組み込まれてしまった。
「ま、心配すんな。俺がいりゃ何もさせねーよ」
「………ごめんなさい」
 元親の口ぶりからすると、毎日送ってくれるつもりらしい。
 鶴姫にとっては非常にありがたい申し出だが、それはつまり彼から自由な時間を奪うということに他ならない。
 かつあげを注意したことも今日のことも、間違ったことをしたとは思っていないけれど、自分のせいで元親に余計な負担を掛けるのは心苦しかった。果たしてこのまま厚意に甘えてしまっていいのだろうか。
 軽快に自転車を漕ぐ広い背中に額をつけて、どうしたらいいか分からず口を噤む。
 しばらく風を切る音だけが続いた。
 ――――と。
「それよりお前、家帰ったらちゃんと手当てしろよ!?痕とか残ったら承知しねーからな!」
 元親が少し大仰に声を張り上げた。
 話題を変えて、暗に気にするなと言ってくれている――――それは感じ取れたのだが、何故傷痕が残ると彼が怒るのだろう?
 鶴姫は本気で首を捻った。
「……不良さんの言うことは、時々よく分かりません」
「なんでだよ分かれよ、鈍いにも程があんだろ!」
「まぁ、悪い口!捉え方が大らかとおっしゃいな!」
「お前のが分かんねーよ!」
 一転、走る騒音と化した自転車が町中を駆け抜ける。
 時折擦れ違う人々が何事かと振り返るが、ある意味二人の世界を作っている彼らには些末なことであった。
 やがて緩やかな下り勾配の道に差し掛かり、元親がペダルから足を離して重力のままに下っていく。
 徐々に上がるスピード、飛ぶような景色の中、どこからか微かに金木犀の香りがして、今日の記憶と共に鶴姫の脳裏に強く刻み込まれた。

拍手[5回]

PR
お名前
タイトル
メール(非公開)
URL
文字色
絵文字 Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
コメント
パスワード   コメント編集に必要です
管理人のみ閲覧

カレンダー

01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28

ブログ内検索

メールフォーム

<< Back  | HOME Next >>
Copyright ©  -- ちか と つる --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Material by もずねこ / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]