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ちか と つる

「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。

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またシブに投稿したのが幾つか溜まってたので、一気に吐き出し~。

喫茶店を営む元就さん・鶴ちゃん兄妹と、そこに下宿するアニキのなんてこともない日常話の第2話です。
今回は姐さんが登場!

≪ 喫茶 日輪 第2話 ≫ しずくいし
 週替わりのランチメニューがチョークで手書きされた小さな黒板の右下に、時折現れては消える白いウサギのマグネット。
 元親がその存在に気付いたのは、喫茶店の2階に下宿するようになって半年が過ぎた頃だった。
「なぁ、あれ何か意味あんのか?」
 手伝いに入っていた鶴姫に何とはなしに尋ねると、ふっふっふと怪しい笑みが返る。
「実はこの店には、裏メニューがあるのです!」
「裏メニュー?」
「ウサギさんは、その注文OKですの印なのですよ♪」
 そして「ジャーン!」という効果音と共に取り出したのは、小振りのフライパン。鮮やかなピンク色をしたそれは、どう見ても元就が使うものとは思えない。
「もしかして鶴の字が作んのか?」
「はい!鶴特製・ホットケーキです☆」
「おお……すげーじゃねえか鶴の字!」
 元就の味への拘りは並大抵のものではない。自分が納得したものでなければ絶対に店には出さないし、それはなんだかんだと甘い妹の鶴姫に対しても例外ではなかった。
 彼女はお菓子作りが趣味でいろんなものを普段からよく作っていたが、元親には十分に美味いと思えるものであっても、それが店に並んだことはまだ一度もない。
 そんな元就が裏メニューとはいえ客に出すことを許可したということは、その味を認めたということだ。
 それが鶴姫にとってどんなに嬉しいことかは、想像に難くない。
 頬を紅潮させてホットケーキについて語る少女に、元親は目を細めた。

 半ば成り行きで注文したホットケーキだったが、元就公認なだけあって、実際かなり美味しかった。
 牛乳の半分をヨーグルトにして作るという生地はふわふわで、それでいて表面はカリッと香ばしい。口の中に入れると優しい風味が広がって、いつか母親が作ってくれた味を思い出した。
 けれど一風変わっているのは、食事用とおやつ用の二種類から選べることだろうか。ホットケーキ自体の味は同じだが、付け合わせがそれぞれ異なるのだ。
 元親が選んだ食事用のものには、アボカドディップとカリカリベーコンが添えられていた。
 ホットケーキの仄かな甘みとアボカドディップの適度な酸味、ベーコンの塩気。そのバランスが絶妙で、元親は美味いを連発して鶴姫を大いに喜ばせた。

 それからというもの、妙に気になる白ウサギ。腹具合関係なしに、店に入ると目で確認してしまう。見つけると何となく嬉しい。
 首元に赤いリボンをあしらい、体に大きな桃色の花を飾ったその顔はどこか得意げで、フライパン片手にエヘンと胸を張ったあの時の鶴姫を思い出して、ついつい微笑んでしまうのだった。



喫茶 日輪 第2話「乙女心とホットケーキ」



 軽やかに音楽が流れ、時折カップの触れ合う音がそれに混じる。一人客が多いのか話し声は疎らで、都会の直中にあってそこには静かな時間が流れていた。
 慌しいランチタイムを終え、午後3時以降のティータイムが始まるまでの小康状態にある店内は一見穏やかだ。
 しかし目には見えない不穏な空気が漂っているのを、元親は肌で感じ取っていた。
 不穏な空気の発生源は――――黙々と皿を拭いている鶴姫だ。いつもにこにこと可愛らしい笑みを浮かべている看板娘が、珍しく眉間に皺を寄せ口を頑なに引き結んでいる。
 今日は日曜で元親の事務所は休みだったが、客先の都合で朝から現場視察に出かけ、同僚を伴って戻ったのが30分ほど前のこと。席に着いてしばらくは仕事上の話に没頭していたので、鶴姫の機嫌が元々悪かったのか、元親が来た後にそうなったのかは分からない。
 どういうことかと元就にアイコンタクトを送ってみても、気付いているだろうに応える気がまるでないのか梨の礫であった。
「……鶴の字、コーヒーおかわりいいか?」
 状況を打開すべく声を掛けてみる。
 が、つかつかと歩み寄った鶴姫は無言でカップを下げ、覗き込もうとした元親の視線を躱してカウンターの向こうへと戻っていった。
 気まずい沈黙。
 やがて芳しい香りと共にコーヒーを運んでくるが、
「どおぞ」
 カップを置く手つきこそ丁寧だが、殊更ゆっくりと発せられた声音は明らかに棘を含んでいた。

 ――――どうやら怒りの矛先は俺みてえだな。

 だが心当たりがない。全然ない。元親は必死で頭を働かせた。
 昨日までは普通に会話していたはずだ。鯨のドキュメンタリー番組の話で盛り上がったから間違いない。となればやはり原因は今日にある。
 もしや何か約束を違えたろうか?今日の出勤は急遽決まったものだったから、前々からしていた鶴姫との約束を反故にした?
 そこまで考えて、元親は頭を振った。
 他の人間ならともかくも、鶴姫相手にそれだけは絶対にない。誰よりも大事に想っている彼女との約束を忘れるなど。むしろそんな約束があるのなら、「お前忘れんじゃねえぞ」とこちらから釘を刺したいくらいだ。
 結局何一つ掴めずとうとう唸り出した元親をよそに、横合いから涼やかな声が上がったのはその時だった。
「すまないが、メニューをもらえるだろうか」
「あ……はい」
「ん?なんだサヤカ、何か食うのか?」
「ああ。小腹が空いた」
 定位置のカウンター席ではなく、珍しく二人席に座った元親の向かいにいるのは、ダークグレーのパンツスーツに身を包んだ長身の美女。元親の事務所の先輩に当たり、名を雑賀孫市という。
 一級建築士の資格を取ったばかりの元親に対して、独立開業に必要な管理建築士の資格を既に取得済みの彼女は、何事においても元親の一歩先を行く存在であった。
 メニューを鶴姫から受け取ると、孫市はざっと目を走らせてからすぐに顔を上げた。その動きに、戻りかけた鶴姫が立ち止まる。
「元親。いつも菓子の差し入れをくれるのは彼女か?」
「おう、鶴の字だ。こないだのスイートポテトもそうだぜ」
 鶴姫は自分が話題に上ったことに少し驚いた様子だったが、ずっと硬いままだった表情をこの時ばかりは幾分和らげて、孫市に向き直った。
「毛利鶴姫です」
「鶴姫……綺麗な名だ。姫と呼んでも?」
「は、はい、もちろんです!」
 艶やかに微笑む孫市に、鶴姫が頬を染める。

 ――――え、何その反応。

 内心引っかかるものはあったが、このまま機嫌が直ってくれるならと深くは追求しないことにした。
「鶴の字、こっちはサヤカ。職場仲間だ」
「紹介くらいちゃんとしたらどうだ、からすめ。私の名は雑賀孫市だ」
「あの、サヤカさんというのは……?」
「ああ、苗字を聞き間違えたコイツが勝手にそう呼んでいるだけでな。深い意味はない」
「そうなんですか……」
 思案顔で鶴姫が頷く。
 何かまだ聞きたいことがあるような、躊躇っているような。
「姫、いつも美味い菓子をありがとう」
「いえそんな、拙いものでお恥ずかしいです」
「そんなことはない。みな喜んで食べているし、元親がよく自慢しているぞ」
「えっ!」
「中でも店で出すホットケーキが絶品と聞いた。そういえば、メニューにはないようだが」
「………あ、裏メニューなんです!でもすぐ作れますから!召し上がりますか?」
「そうだな。ではもらおうか」
「はい、かしこまりました☆」
 食事用かおやつ用かを問う瞳が、キラキラと輝いている。
 おやつ用との返答を受けて調理場へ向かうその姿は足取り軽く、先ほどまでの不機嫌の影は微塵もなかった。
 打ち払ったのは、孫市だ。そのことに若干の敗北感を覚えて、元親は椅子の背に乱暴に身を投げ出した。
「ちぇー。さすが事務所内バレンタインチョコ獲得数常連1位は言うことが違うね」
「お前は何故姫の機嫌が直ったのか、わからないのか?」
「だーから、てめえが女子の心を掴むのが上手いからだろうが」
「そうか。フフ、その分では苦労しそうだな」
「あァ?」

 気を取り直して、注文の可否を握る白ウサギのことを孫市に説明してやっていると、食欲をそそる甘い匂いが店内に漂い始めた。
 程なくして出てきたのは、ハニーバターを頭に戴いたこんがりキツネ色のホットケーキ、バニラアイス添え。顔を近づけると、柑橘系の匂いがふわりと香る。
「これは……オレンジか?」
「蜜柑フレーバーのハニーバターを使ってるんです♪」
「なるほど」

 ――――いや待て、まず最初に突っ込むべきはそこじゃねえだろ!?

 和やかに会話する女性陣に、元親は心の中大いに叫んだ。声に出さなかったのは賢明だろう。
 そのホットケーキ、確かに非常に美味しそうではあるけれど、その形は通常の丸型ではなく、お子様用かと見紛うほどファンシーなクマ型だったのである。ご丁寧にチョコレートソースで目と口まで描かれている。
 いや、元親もそういう趣向のものが時々出されることは知っていた。実際に食べたこともあるし、この店には客の間にまことしやかに流れる噂がある。
 曰く、変わり種ホットケーキが出てきた客には良いことがある、と。
 実際は、可愛いフライパン集めが趣味の鶴姫が、自身に良いことがあった時に気まぐれに使っていただけというのが真相なのだが、幸せな気持ちというのは伝染するものなのか、その変わり種ホットケーキを食べた者が次々と良い知らせを持ってきたため、いつしかそのように伝わったようだ。
 閑話休題。
 とにかく、元親にはそれを前にして無反応なことが信じられなかったのである。
 だが孫市は意に介した風もなく、普通に口に運んでいる。店の電話が鳴り、鶴姫が席を離れたのを見計らって、元親は小声で孫市に問いかけた。
「……サヤカお前、よく平気な面して食えるな……」
「?美味いぞ?大体、勧めたのはお前だろう」
「いや、味じゃなくて見た目がよ。………だってクマだぞ?」
「クマだな。普段は違うのか」
「いつもは普通の丸いやつだ。鶴の字の機嫌が特別良い時だけ、このテのが出てくる」
「ほう」
「前に俺が食ったのなんか、なんつーかこうまるっとしたウサギでよう」
 上背があり筋骨隆々のがっしりした体格、強面の顔に更に迫力をプラスする眼帯。かなり威圧感を与える外見をしている自覚はある。
 そんな大の男と可愛らしいウサギホットケーキの取り合わせは、珍妙以外の何者でもない。ウサギを前にして途方に暮れる様は、周りの目にさぞかし滑稽に映ったことだろう。
 しかし隣で鶴姫に「どうです可愛いでしょう」とニコニコ笑まれてしまっては、拒否などできるはずもなく。
「あの時の貴様の引き攣った顔は見物であったな」
「てめ毛利、こんな時ばっか余計な口挟みやがって……!」
 通り過ぎざまにボソリと皮肉を言い置いてレジへ向かう毛利に悪態をついてから、元親は慌てて振り返った。――――大丈夫、電話応対中の鶴姫には聞かれていない。
「……そういえば」
 ほっと胸を撫で下ろし、容赦なく一刀両断されたクマに視線を移してふと気が付いた。
 変わり種ホットケーキが出てきたということは、彼女に余程の良いことがあったということだ。ついさっきまでは不機嫌の極みであったというのに、機嫌が直ったばかりか一足飛びにプラスへ押し上げるほどの何かが。
 しかしいくら女子の心を掴むのが上手いとはいえ、初対面の孫市の存在だけでそこまで変わるとは思えない。
 コーヒーを啜って考える。考える。考える。直感が、第六感が、この謎を明らかにすることの重要性を告げていた。
 順に辿る記憶の糸。
 差し入れ、名前、ホットケーキ――――
「………はっ!もしかしてアイツ、俺が食事用ばっか食うのが不満で、おやつ用を頼まれたのがそんなに嬉しかったのか……!?」
 元親が閃き愕然と目を見張ったのと、筒状に丸められた雑誌がその後頭部にスパーン、と炸裂したのはほぼ同時だった。
「ィデッ!何しやがる!?」
「姫の代理だ。もう少しまともな答えを出せ、からすめ」
 その口ぶりに、後頭部を擦っていた元親の手が止まった。もしや答えを知っている?
 しかしその後元親がどんなに聞いてもヒントを乞うても、孫市がこのことについて口を開くことはなく。午後3時を目前にしてじわりじわりと増え始めた客に、カップに僅かに残った褐色を飲み干し、彼女は店を後にした。
 残った元親はカウンター席に移動し、一人手帳を開いている。一見スケジュール確認をしているようだが、その関心は依然として唯一人に向けられている。

 ――――同じモン頼んでみりゃ、何か分かんのかねぇ?

 意見を求めるように振り仰いだ黒板上の白ウサギは、澄ました笑顔を見せるばかりで何も教えてはくれない。
 腕時計から小さな電子音がピピッと響く。流れ込む人の波、それを知らせるベルの音は高く高く。
 喉元で引っかかっている消化不良のあれこれを抱えたまま、元親は伝票を手に立ち上がった。

 喫茶日輪、本日二度目のピークが訪れようとしていた。

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