ちか と つる
「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。
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一般に広まっているのは「蛇」だと思うのですが、他にも「お化け」とか「泥棒」とか諸説あるようなので、こういうのがあってもいいかな、と。
ギリギリまで「鬼」と迷いました。
≪ 口笛吹けば ≫ しずくいし
ギリギリまで「鬼」と迷いました。
≪ 口笛吹けば ≫ しずくいし
七つ酢漿草を染め抜いた白い帆いっぱいに風を受けて、長曾我部軍の大型船がぐんぐん進む。
その甲板でどっかと胡坐をかき、新しいカラクリの設計図を上機嫌に眺めていた元親の袖を存外強い力で引いたのは、共に奥州へと招かれた鶴姫だった。
日頃からカラクリに興味はないと放言している彼女がどうしたことか。とうとうこの腹の底にぐっとくる良さを理解したかと破顔しかけるが、食い入るように顔を覗き込んでくるその表情に違うものを感じて、元親は諸々を呑み込んだ。
零れ落ちそうな好奇心を乗せて、琥珀の瞳が猫のようにきろりと動く。華奢な手が元親の武骨なそれに触れ、右、左と順に拳を開かせた。
「………なんですか?」
「いや、そりゃ俺の台詞だろ」
「海賊さん、何も持ってません」
「あァ?」
「さっき何か音がしました!」
「音……?風じゃねえのか?」
「違います!ちゃんと旋律がありましたもん」
「あー、もしかして口笛のことか?」
「くちぶえ?」
小首を傾げる動作は小鳥のようだ。揺れる焦げ茶がふわりと香る。
――――もしかしてコイツ、口笛を知らねえのか?
つい最近まで社に篭っていたこの娘の世間知らずは尋常ではないので、在り得ない話ではない。加えて彼女が身を置くのは、生真面目でどこか浮世離れした伊予河野軍。連中が口笛を吹くところというのもなかなか想像し難いものがある。鶴姫が知らないのも、案外道理なのかもしれない。
「あんたもやってみるかい?」
そう言って元親がぴゅうと手本を見せてやると、鶴姫は目に見えて顔を輝かせた。そして見様見真似で唇をすぼめ、しばし思案したのちに
「ンーーー」
「ぶはっ、お前それ完全に口で言っちまってるじゃねーか!」
「うぅ、だってわかりません!」
「口笛ってなぁ、原理は笛と一緒よ。すぼめた唇に息を当てて、気流を作ってやることで音を出すんだ」
「息、ですか?」
それから、鶴姫の口笛練習三昧が始まった。
昼夜問わず、思い立ったらぴーぷーやっている。正確にはふーふーか。何せ根本的な吹き方が分かっていないので、単なる息の出し入れにしかなっていないのだ。
それでも時折はそれらしい音が偶然出ることもあって、そうすると成果を見せに元親の下へと飛んでくる。そしてふひゅう、と気の抜けた音しか出ないことに心底不思議そうな顔をして首を捻った。
この日も夜の帳が下り、必要最低限の人数を残して船が寝静まった頃、静寂の向こうで緩やかに響く波音と共に突然鶴姫はやって来た。
――――これでいいのか伊予河野。誰かコイツに警戒心ってものを教えてやれ。襲うぞ。
とはいえ、実際に行動に移すほど元親もケダモノではない。
理性を総動員し、さっきはちゃんと吹けたのに、と落ち込んでいる鶴姫の丸い頭をくしゃりと撫でながら助言を送った。
「それじゃあ音は出ねえだろ。吹きながら、ちょっと舌を浮かせてみな」
「こうですか?」
「うーん、何か違えな。もっとこう、舌を下の歯の裏側につける感じで」
口元をよく見る為に、長身を屈めて顔を近づける。息が触れ合いそうな距離にあっても、口笛練習を見てもらっているという意識があるせいか、鶴姫は咎めなかった。
二人の他には誰もいない元親の部屋の中、角灯の焔が誘うように揺れる。目の前には、可愛らしく突き出された桜色の唇。髪を擽る甘い息。
くらりと視界が揺らいだのは、火影が見せた錯覚だろうか。
あ、と思った時には、身をもって唇の柔らかさを享受していた。
直に伝わる震えに身を引くと、驚愕に見開かれた瞳が宙を彷徨い、下に落ち、また上がって元親を捉えた。
その蕩けるような熱の、色。
「鶴の……」
「ははは破廉恥です助兵衛ですケダモノ、です!!!」
「いってぇ!!」
ばちんと顔面を掌で叩かれ、怯んだ隙に鶴姫が扉の向こうへと細い身体を躍らせる。
閉める寸前、扉の隙間から「いー!」とやって、倒けつ転びつ去っていく鶴姫の顔は首元まで真っ赤だった。
「あー、やっちまった……」
一方、一人残された元親は罰悪げに頬を掻き、独りごちる。
悪いことをしたという気持ち半分、けれど今も唇に残る感触が幸せで、その頬は本人の意思に反して緩んでいた。
そしてそれ以来、鶴姫は口笛の練習をぱったりと止め――――更には「夜に口笛を吹くと獣が出る」という迷信が広がったとかなんとか。
その甲板でどっかと胡坐をかき、新しいカラクリの設計図を上機嫌に眺めていた元親の袖を存外強い力で引いたのは、共に奥州へと招かれた鶴姫だった。
日頃からカラクリに興味はないと放言している彼女がどうしたことか。とうとうこの腹の底にぐっとくる良さを理解したかと破顔しかけるが、食い入るように顔を覗き込んでくるその表情に違うものを感じて、元親は諸々を呑み込んだ。
零れ落ちそうな好奇心を乗せて、琥珀の瞳が猫のようにきろりと動く。華奢な手が元親の武骨なそれに触れ、右、左と順に拳を開かせた。
「………なんですか?」
「いや、そりゃ俺の台詞だろ」
「海賊さん、何も持ってません」
「あァ?」
「さっき何か音がしました!」
「音……?風じゃねえのか?」
「違います!ちゃんと旋律がありましたもん」
「あー、もしかして口笛のことか?」
「くちぶえ?」
小首を傾げる動作は小鳥のようだ。揺れる焦げ茶がふわりと香る。
――――もしかしてコイツ、口笛を知らねえのか?
つい最近まで社に篭っていたこの娘の世間知らずは尋常ではないので、在り得ない話ではない。加えて彼女が身を置くのは、生真面目でどこか浮世離れした伊予河野軍。連中が口笛を吹くところというのもなかなか想像し難いものがある。鶴姫が知らないのも、案外道理なのかもしれない。
「あんたもやってみるかい?」
そう言って元親がぴゅうと手本を見せてやると、鶴姫は目に見えて顔を輝かせた。そして見様見真似で唇をすぼめ、しばし思案したのちに
「ンーーー」
「ぶはっ、お前それ完全に口で言っちまってるじゃねーか!」
「うぅ、だってわかりません!」
「口笛ってなぁ、原理は笛と一緒よ。すぼめた唇に息を当てて、気流を作ってやることで音を出すんだ」
「息、ですか?」
それから、鶴姫の口笛練習三昧が始まった。
昼夜問わず、思い立ったらぴーぷーやっている。正確にはふーふーか。何せ根本的な吹き方が分かっていないので、単なる息の出し入れにしかなっていないのだ。
それでも時折はそれらしい音が偶然出ることもあって、そうすると成果を見せに元親の下へと飛んでくる。そしてふひゅう、と気の抜けた音しか出ないことに心底不思議そうな顔をして首を捻った。
この日も夜の帳が下り、必要最低限の人数を残して船が寝静まった頃、静寂の向こうで緩やかに響く波音と共に突然鶴姫はやって来た。
――――これでいいのか伊予河野。誰かコイツに警戒心ってものを教えてやれ。襲うぞ。
とはいえ、実際に行動に移すほど元親もケダモノではない。
理性を総動員し、さっきはちゃんと吹けたのに、と落ち込んでいる鶴姫の丸い頭をくしゃりと撫でながら助言を送った。
「それじゃあ音は出ねえだろ。吹きながら、ちょっと舌を浮かせてみな」
「こうですか?」
「うーん、何か違えな。もっとこう、舌を下の歯の裏側につける感じで」
口元をよく見る為に、長身を屈めて顔を近づける。息が触れ合いそうな距離にあっても、口笛練習を見てもらっているという意識があるせいか、鶴姫は咎めなかった。
二人の他には誰もいない元親の部屋の中、角灯の焔が誘うように揺れる。目の前には、可愛らしく突き出された桜色の唇。髪を擽る甘い息。
くらりと視界が揺らいだのは、火影が見せた錯覚だろうか。
あ、と思った時には、身をもって唇の柔らかさを享受していた。
直に伝わる震えに身を引くと、驚愕に見開かれた瞳が宙を彷徨い、下に落ち、また上がって元親を捉えた。
その蕩けるような熱の、色。
「鶴の……」
「ははは破廉恥です助兵衛ですケダモノ、です!!!」
「いってぇ!!」
ばちんと顔面を掌で叩かれ、怯んだ隙に鶴姫が扉の向こうへと細い身体を躍らせる。
閉める寸前、扉の隙間から「いー!」とやって、倒けつ転びつ去っていく鶴姫の顔は首元まで真っ赤だった。
「あー、やっちまった……」
一方、一人残された元親は罰悪げに頬を掻き、独りごちる。
悪いことをしたという気持ち半分、けれど今も唇に残る感触が幸せで、その頬は本人の意思に反して緩んでいた。
そしてそれ以来、鶴姫は口笛の練習をぱったりと止め――――更には「夜に口笛を吹くと獣が出る」という迷信が広がったとかなんとか。
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