ちか と つる
「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。
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ピクシブにて、「アニキ記憶あり、鶴ちゃん記憶なしの現パロ転生モノ、R18シーン付き」というリクエストに応じて前・後編を書きました。そして、「後編」は思いっきり18禁内容になったため、アクセスを制限しています。
しかし、きっと18歳以下の同志もおられて、そんで前編を読んでくださっていた方もおられると思うと、半端に中断させてしまうのが申し訳なくなってきました。
つきましては、18禁場面を略した全年齢版を、以下に掲載いたします。どこまでがまずいのか、よくわからんのだが(笑)。
れんげのうみ<後編>/全年齢版
元親の住まいは、まさに下宿といった感じの昔懐かしい古びたアパートだ。なにせ最初から居住は二年間限定だったし、自炊はするにせよ他は寝に帰るだけの用途だったので、元親には何の不満も不自由もない。
二階建ての全八室。かつては同じ仕様で十棟も林立していたその最後の立ち残りだと不動産屋は説明した。煮炊きはできる、トイレはある。しかし風呂に湯船はなくてシャワーしかない。取り柄は大学からの近さ、そして安さと居住者の少なさだ。とにかく一部屋でも二部屋でも同じ賃料なのがすごい。どこぞの通販じゃあるまいし。
また、元親以外には四室埋まっているという話だったが、めったに帰らないのか生活時間の違いなのか、元親はそのうち二人ほどしか見かけたことはない。
防犯上、女の子には薦められた環境ではないが、隠れ家あるいは根城的な場所を無条件に好む元親には願ってもない『巣』である。元親は二階の端を主に寝たり食べたりの生活部屋に、そしてその隣を書斎および趣味部屋として、隣り合わせた二室を便利に使っていた。
「てなわけでドアが二つな。まずこちら手前が作業室でござい」
じゃらじゃらしたキーチェーンを引っ張り出して、鍵を開ける。
「どうぞ!」
さっとよけて鶴姫にノブを示す。
「は、はい」
「待った!」
「きゃああ!」
緊張気味の鶴姫がノブを掴んだ瞬間、後ろからバン!と平手でドアを押さえる。
「すっっげ散らかってっから!」
飛び上がってきっと睨んでくる鶴姫に、にやりと言い渡した。
「あと、煙草はコッチで吸ってっから臭ェ!」
換気扇はあるが、ガタガタうるさいばかりで御利益のほどは不明である。
「うう」
「でも怒るなよ、お前が来たいつったんだからな」
元親のヘンテコな宣言に、鶴姫は怯んだようで、意地悪ですとかなんとか呟いているが、再び眉を凛々しくしてノブを引いた。
足の踏み場も……というほどではないが、ガチャガチャした機械類や何やら基板やコードのはみ出した箱などがいろいろ積み上がり、確かにひどく雑然としていた。本棚の分厚い専門書は、タイトルが日本語だったり英語だったりで縦になり横になりぎっしり詰まっている。
「で、俺はここに座って」
パソコンデスクに向かい合わせた椅子にどっかと腰を下ろし、パソコン、プリンター、デスクライト、小さな送風機と次々に電源を入れてゆく。
「コーヒーここ置いて、煙草ここだろ」
「全部、座ったままで手が届くところに?」
「おう、ないと困るからな」
勝手にくっつけた、引き下ろし自在な小棚を二つ引き寄せて見せると、鶴姫が少し笑った。こわばっていた表情が緩んだので、元親も内心息をつく。
「で、お前がここ、と」
「は?」
言ったところでタイミングよくモニターが点灯する。さし示す元親の人差し指をたどった鶴姫の視線がデスクトップに到達する。画面の向こうから覗きこんでいるのも『鶴姫』だ――――携帯に送ってもらった例の写真の。
「きゃああ! やっ、やだ消してください!」
「ああ!? なに言ってんだよちょうどこう……絶妙に実物大だろうがよ!」
そんな思わぬところで言い争いは発生したが、鶴姫の顔はもうひとはけ明るくなった。
カップはひとつ、座布団すら一枚で、誰かを迎える部屋ではないのだ。
「不動産屋と電器屋以外で、ここに入ったのはお前が初めてだぜ」
念のため言葉にすると、鶴姫は黙って頷いた。
「野郎どもも呼ばねえよ、何せ狭いからなあ」
隣いくか、という問いかけにはハイと素直な声が返った。
「当然コッチだって散らかり放題だぜ、今朝出たっきりだしよう」
言いながら開ける。まあ、こちらには煙草の臭いはないのはまだましだ。
「はい……ふあっ!?」
頷いた鶴姫がドアの中に入ろうとしていきなりつんのめる。せまい土間に元親の大きな靴が溢れているからだ。
「あ、そか、いきなりだなあ、はっは、悪ィ悪ィ」
己が履いて出た靴が入る隙間しかないのだ。いったん引っ込んだ鶴姫の代わりに玄関にしゃがみ、下駄箱をガタゴト開けて、とりあえず何足か放り込んだ。もちろん女の靴なぞないことは、端から見ても明らかだろう。
「ほい、改めましてどーぞー」
声をかけたら構わずに、ずかずか入る。ボディバッグを肩からはずしてそこいらに放り、卓袱台の脇にどすんと腰を下ろした。
「お邪魔します!」
行儀よく言った鶴姫が靴を脱ぎ、屈んで揃えるさまを眺める。今生の彼女もやはり育ちがいいのだろうと思う。ときどきびっくりするような行動に出るので油断はできないが。
「……なんですか?」
「や、靴ちっちぇなと」
まさか、足首の細さに見入っていたとは言えない。
「まあ、元親さんの靴が大きすぎるんです。私こう見えて足は大きい方ですよ、23cmありますもん!」
いや小さいし。喉元まで出かかったが、鶴姫が威張っているので、とりあえずこの場は飲み込む。
卓袱台に近づき、座ろうとしながら部屋を見渡した鶴姫が見てはっきりわかるほどにビクリと飛び上がった。
「鶴?」
すぐに視線を卓袱台に落としてさっと腰を下ろしたが、ずいぶん固く口を結んで……いや全体に固くなっている。
どうしたことだ。
そりゃあ、流しには昨夜からの洗い物が積んだままでそろそろ洗わないとまずいし、箪笥のひきだしは幾つか開けっぱなしだし、ダイレクトメールや新聞が雑然と散らばっている。加えてベッドに至っては、朝起きた瞬間に元親の蹴飛ばした形で布団が捲れ、しわだらけのシーツがだらしなく覗いてもいた。だが、そこまで変なものは置いていないし貼ってもない――――と、そうか、ベッドか。
「つーる?」
座った姿勢のまま、尻で大きく動き、背筋を伸ばして正座している鶴姫にくっついて胡座をかく。肘を卓袱台について、のし、と細い肩にもたれた。
「なっ、なんですかっ」
それでも怒ったような声で咎めるばかりで顔が上がらないので、元親はにやにやしながら、下から覗きこんでみる。
「なに、なに緊張してんだ」
またビクッとおののいた鶴姫は、赤く頬を染め、飴玉みたいな瞳を瞬いていた。
「緊張なんか、うう、してます!!」
「ぐは」
それでも眉を凛々しく見詰め返すから、てっきり意地を張るかと思えばこれである。元親は、飾りなく差し出された鶴姫の本音に弱い。予測外で繰り出されてはなおさらだ。
べちゃと卓袱台に伏せ、伏せた姿勢のままでごそごそとジーンズの尻ポケットを探り、掴み出したそれを卓袱台に置いた。
「そら、どこでも好きなとこ見な」
携帯電話である。
「アドレス帳に女がいないたあ言わねえよ。知り合いとはメールも電話もしてら。でもお前に後ろ暗いことはひとッつもねえ」
「……」
小さな白い手がつや消し紫のそれにそろそろと伸び、そおっと包みこんだ。それを横に見てから目をとじる。
「なんなら部屋ん中もお好きにどーぞ」
「……」
だがいつまでたっても、鶴姫が動かない。携帯を開く音がしない。エロ本見つけたら怒るかなあ、などと考えていた元親は目を開けて頭を起こした。
「どうした」
「いいです」
「鶴」
「ごめんなさい、違うの……ごめんなさい」
くっ、と鶴姫の細い喉が鳴り、元親の血の気が下がるが娘の涙は溢れてはいない。
「浮気とか二股とか疑ったんじゃありません」
「え、でもよ」
元親は車内での会話を思い返す。鶴姫は何と言った?
『 元親さんが見てるのは、ほんとは誰なのかしら、って―――― 』
「鶴の字……って誰ですか?」
「!?」
正座の膝に揃った鶴姫の両手が、膝の上で拳になった。真剣に斬り込まれているのはわかる。わかるが、その質問の意味が元親の頭の中に染み透らない。
「呼び名が変えられなくて、指先が固くて、煙草の煙がキライで―――――やせっぽちで、元親さんを悲しませたのは誰?」
それは鶴姫だ。ここにいる、いるけれどもういない、髪を海風になぶらせ、甲冑に身を包んでいた少女。痛いほどの陽光。海鳴り。船の軋み。海鳥の声。目映い波間に散らばる赤紫と白の花。
「私、代わりなんでしょう? そのひとがいないから? そのひとに似てるから?」
「いや、待て!」
思わず鶴姫の肩を掴んだ。正座が崩れ、元親の胸板に細いからだがぶつかってくる。近い、近いところから鶴姫の大きな双眸が、瞬きもせず元親を見上げる。
「代わりなんかじゃねえよ、お前だ、俺はずっとお前だけを探してて」
「探す……?」
細い眉が寄った。駄目だ、これでは伝わらない。
元親は腹をくくり、無言で眼帯を引きむしった。鶴姫が息を飲んだのがわかる。額から左目の目蓋を通り、頬骨にかけて、赤い太い筋が通っているのが見えたはずだ。
「これ、傷じゃねえんだぜ、色素異常なんとかの痣なんだとさ。お袋、俺生んだとき、あんまり人相の悪い赤ん坊に一瞬ビビったらしいけど」
ゆっくり左目の目蓋を開け、瞬きをして見せる。きちんと右目と連動して動くので、鶴姫には普通に見つめあっているように感じるはずだ。
「見えて……?」
「ない。目玉も神経も筋肉も機能に異常ねえのに、不思議だよな」
笑ってみせたら、きゅ、と片手を握られた感触がした。鶴姫の両手が元親の手を取っている。
「眼帯いりませんよ。そのままで元親さん、素敵です」
「……ありがとよ」
鶴姫の額に口づける。鶴姫は避けなかった。そのことが心に染みる。
「なあ、鶴はそういう生まれつきの痣……みてえの、胸か背中にねえ?」
恐ろしい終焉の記憶は、なかなか思い返すこともできなくて曖昧なままだったが、当時の自分の力量から言って、槍や刀を近づけさせたはずがない。鶴姫がかばわなければ間に合わず、そして一撃でその命を摘んだ物。矢でなければ銃弾の可能性が高いと元親は考えていた。
「たぶん、こう、ちっせい丸いの。楕円か星型かもな」
親指と人差し指で五mmほどの隙間を作って示すと、鶴姫の目がぱっと見開き、左胸の下あたりを押さえた。
「見……!?」
「まだ見せてもらってねえ!……あんのかッ!!」
掴みかかる勢いで顔を近づける。鶴姫はひどく動揺した顔で頷いた。
「あの……それはもしかして前世とか生まれ変わりとか、そういう……」
「う」
気恥ずかしさにばりばりと頭を掻く。まさにそうなのだが、はっきり言葉にされると、精神世界の話題すぎて妄想ぽいというか、夢見がちというか。
「だってよう!!」
それで怒鳴ってしまった。
「思い出すとかじゃなくてよう、俺ガキの頃からあんたの顔知ってんだよ、や、もちろんガキのあんたじゃなくて、今の」
目に力をこめて鶴姫の目を見据える。
「今のお前の顔をよ!」
元親にとって、前の自分と今の自分はほとんど溝なく連続している。力や考え方、常識の枠組はかなり現代に合わせた制限を受け、あるいは開放された自覚はあるが、今生の少年時代を思い出す感覚の延長で、前世の自分の意識を想起していた。だから、鶴姫も、元親にとっては『同一人物』なのだ。それをどう言えばわかってもらえるだろう。
「う、運命のひと……!?」
「ぐは」
それはそうなのだが紛れもなく正しいのだが、そういう……乙女チックな表現は抜きで!
「ええとつまり、俺は前んとき、左目潰した男で」
瞬きする鶴姫に、元親は苦笑した。
「指とか言ってたな。あの頃のお前は素手で弓を引いてた。今はいらねえモンだから変わって当たり前だろ。俺だって」
片手を顔の前へ広げる。
「槍でこさえたタコなんざ消えて失せた。今はそら、キレイなもんさ」
誰も殺したことがないし――――と、これは言わずに。
「でもな、俺は俺だしお前はお前だ。あの頃も、俺はお前が可愛くてよう」
その手を鶴姫の頭のてっぺんに置き、なめらかな頬へするりと滑らせる。そのまま肩へ落とした。鶴姫はまじまじと元親を見上げている。
「なのに、よりによって、俺の代わりに死なせちまった」
その焦げ茶の透き通った瞳を覗きこんでいると、少しずつ、今がいつかわからなくなってゆく。あまりにもかつてのそれと同じ過ぎて、過去生の感覚が近くなる。これは誰に対する懺悔だ。今しゃべっているのは誰だ。
「亡くしたもんは戻りゃしねえ……わかっちゃいたが、それでも俺ァ、一褸の望みにすがってた。お前が死に際に『また会える』って言ったから」
そっと鶴姫の肩に顔を伏せた。額に仄かな温もりを感じる。たったこれだけを白状するのに、元親はひどく動揺していた。優しい匂いを胸一杯吸って、やっと波立つ心が治まる。
「ごめんな、とことんしつけえ男でよ。引いたか?」
顔も上げずに囁くと、鶴姫は元親の頭をそっと撫でた。突っ立った銀髪に細い指が静かに通る。
「ふふ、意外と柔らかいんですね」
「鶴」
「ずるいですよ、元親さんばっかり私のこと知ってて」
「いや俺も……」
もそもそ言いながら、細い肩から背中へと腕を回した。
「今のお前のことは、これから……いっこずつ知らねえと」
「はい」
鶴姫も、身を元親の胸に委ねる。すんと鼻を鳴らした。
「あ」
「ん?」
「あの、煙草の煙は嫌いなんですけど、元親さんについた匂いなら……なんかけっこう好きみたいです」
「お前……またそういうことを簡単に」
悔しさ半分、照れ隠し半分でぎゅうと抱き締めると、その腕の中で鶴姫がくすくすと小さく笑っている。その秘めやかな笑い声が、元親の心の襞に熱を流しこむ。熱く霞み、甘いのかもしれないが、ぎりぎりときつく痛いほど食い入ってきて辛い。
「元親さん」
見上げてくる鶴姫の潤んだ瞳、桜桃のように艶めいた口唇、己の腕に委ねきられ、魅惑に満ちたあたたかなからだ――――
「……ッ!」
ぐうと身の裡で膨れ上がった衝動を、元親は鶴姫の肩を押しやって離すことで無理やり遠ざける。
ところが、驚いた鶴姫の顔で眉がきりりと逆立ったかと思ったら、
「ド――――ン☆!!」
威勢のよい叫びとともに、突き転ばされた。
「ええええ」
「えい♪」
煤けた天井を見上げて驚愕していると、のしっと腹に重しがかかり、視界に鶴姫の顔が入ってくる。
「お、おま、なんつーことを」
「私が泣くと思ってるんでしょ?」
慌てて跳ね起きようとしていた元親の動きが、中途半端な姿勢で止まった。至近距離にある鶴姫の目はもちろん真剣だ。ほとんど必死と言ってよい。
「……俺がお前を社から連れ出そうとしなきゃ、お前は死ななかった」
「……?」
「何度も後悔した。何度も、何度も」
何度も、と繰り返すごとにせりあがる熱い塊が喉を焼いた。目を固く瞑り、目蓋の赤い闇に散る目映い白を見る。
「――――謝りたい? 前の私に?」
はっと胸を突かれて目を開ける。
「……違う」
「私はいなくなりません! だって私、元親さんに会いに生まれて」
鶴姫の強気の眉がみるみる陰った。
「ここにいるんじゃ、ないんですか……?」
元親に前のめりでのしかかっていた重心が、そろりと下がる。
「それともやっぱり……前の私じゃないと」
「……ッ」
ほとんど反射的だった。
「きゃあ!?」
考える前に手が伸びて、考える前に起き上がった。軽々と鶴姫を腹に載せたまま反転して、逆に覆いかぶさる。
「記憶なんかいらねえや」
見開いた瞳につう、と涙の透明な膜が張った。顔を近づけると白い目蓋がゆっくりと閉じ、溢れた一筋が頬へ伝う。その一筋を指でぬぐう。あたたかくなめらかな頬をゆっくりと撫でる。
「このあったけえ生きたお前が、俺の懐にいりゃあそれでいい」
そしてそのまま、口唇を重ねた。
「あ、うく……ッ」
顎を掴み、噛み合わせを強引に開かせて、元親は鶴姫の口咥深くへいきなり押し入る。
口づけというより噛みつくようだ。分厚い舌を無遠慮にさしこみ、小さな口の中を舐め回し、うかうかと宙に浮いていた鶴姫の舌に絡みつく。
応えようにも応えられない鶴姫が、それでも精一杯口を開けていたので、元親は顎から手を離し、代わりに鶴姫の後頭部を抱えた。
「ふ、ふあ、んん」
「つる……ハッ」
くちゅくちゅと激しく唾液が鳴り、合間に二人の吐息が洩れる。鶴姫の頭を支える手のひらと自らの口許とで、好き勝手に角度を変えては、夢中で肉と粘膜を擦り立て、滴る互いの唾液を啜り合った。
「は……」
「はあ、は」
やっと口を離せば、さしこんでいた舌から、鶴姫の赤く腫れた口唇へと唾液がだらりと糸を引く。鶴姫はもう息も絶え絶えで、涙のにじんだ目許を赤く染めていた。
「……」
再び口唇を近づけると、見てわかるほど怖じけてビクッと身を震わせたが、おずおずと口を半ば開いて元親を迎えるのがいじらしい。
元親は股座で熱い拍動を感じていた。もう、じきに自分は止まらなくなる。止めるなら今だ。だが、それを鶴姫に言いたくない。
「ん」
今度は優しく口唇を合わせる。口唇を食み、舐め回し、ゆっくりと舌を入れて、そろそろと甘く甘く緩やかに絡ませ合う。
「んん、ふあ」
鶴姫の両腕が下から伸びてきた。元親の首に悩ましく絡みつく白いなめらかな腕。
元親はその感触を楽しみながら、鶴姫の舌先をちろちろと苛む。不意打ちで舌の付け根を舐めずって引っ込むと、鶴姫の舌もその真似をして元親の口の中へ伸び、不器用に舌の付け根を探り出す。
「くく」
「ん、んん、ふあう」
口唇が離れ、舌だけが触れ合い、甘い蕩けるような深い口づけが続く。
元親の片手が動き出した。鶴姫の鎖骨を撫で、服の上から胸を探る。
「ん、あ」
さすがに声が洩れた。しかし抗う気配はない。乳房を手のひらで囲み、乳首があると思われるあたりを親指でくすぐる。
「ひゃう、んん」
鶴姫が身じろぎし、元親の肩にすがりつく腕に力をこめた。元親はますます戯れる舌に熱意をこめながら、手のひらを脇から背中へ這わせる。背筋を強く辿ると、きゅっと反った。いよいよ吐息は甘い。尻をゆっくり撫で回し、ワンピースの裾は捲らずに片方の太ももをなで下ろして、膝裏を持ち上げた。
鶴姫は震え、戸惑っているが、両足の間に入り込まれ、片足を抱えあげられてなお何一つ抵抗しない。
「あ、やあ」
口唇を外したら初めてむずかった。その濡れきった声音が元親の芯を直撃する。かああっと身体に火が入り、呼吸しづらい。
「鶴……なあ」
「ひゃん」
熱い息で真っ赤な耳に囁いたら、それだけで小さな悲鳴が上がった。
「あっ、やっ、やあん」
思わず耳孔に舌を入れ、ぬるりと溝を辿る。泣くような声を上げさせながら、さらに囁いた。
「ベッドに、連れてっていいか?」
僅かながら頷くそぶりが、元親の頬に伝わる。元親は肩にしがみつかせたまま、鶴姫の両膝をすくいあげた。膝を立て、立ち上がる。その足の下で、ぎし、と古い畳が軋んだ。
「鶴、ちょっと……な、ちょっと待ってろ」
自分の寝床に鶴姫を座らせ、ぽんぽんと肩を叩いて、腕をはずさせる。不安げな顔に笑って見せ、額にちゅ、と口づけてから立ち上がった。
鶴姫に背を向けて、カーゴパンツの尻ポケットから財布ごとキーチェーンを引きずり出して棚の籠に放り込む。黒いTシャツをぐいと引っ張って頭を抜くと、後ろからキャッと悲鳴が聞こえた。素っ裸になったわけじゃなし、と可笑しかったがそこは突っ込まずシャツを脱ぎ捨て、はずし忘れていた腕時計も棚に置く。
使うあてもなく虚しかったが持っててよかった男のたしなみ、例のアレは、ベッドの下の引き出しだ。一包み取って尻ポケットへねじこむと、鶴姫の不思議そうな目と目が合う。
「……いやあ、俺はいいけどよう、お前、大学二年で中退してデキ婚とか、無計画なのは」
「ばかっ」
わかったらしく、真っ赤になって叫び、くるりとそっぽを向く。その隣に腰を下ろして、背中からそおっと抱きかかえた。
「鶴」
呼ぶと俯く。さらりと落ちた栗色の髪から覗くうなじが美しい。美しいが儚げで、胸の底がちりちりと波立つ。口唇を落とすと肩が跳ねた。口づけたまま、背のジッパーをゆっくり下ろす。
「あの、じ、自分で」
「うん、こいつの金具だけはずして」
震える指が半ば覗けた白い背に回った。カチ、という下着を緩めるささやかな音に元親は笑む。ワンピースのジッパーの間からするりと右腕を入れ、大きな手のひらで乳房をおおった。
「……ッ」
鶴姫が元親の腕の中で息をのむ。緊張した小鳥を捕らえたようだ。かわいそうだが、もう逃がす気はない。
「あ、んん……ッ」
下着は乳房から浮いている。それをいいことに、背から回した手で下からずらしながら侵入し、ふにふにと柔肌を揉み遊んだ。
「ごめんなさい、私の、小さくてあんまりその」
「何言ってんだ」
首筋から肩口にちゅ、ちゅ、と口づけを走らせつつ、片手でワンピースをぐいと前に引き下げ、腕を抜くように促す。
両の手のひらで乳房を抱え直し、親指と人差し指に乳首を挟んでころころといじめ始めると、鶴姫の息が落ち着かなくなった。
「あっ、あ、やあ」
「ずっと触りたかった。俺いま、すげえ緊張してる」
「ウソです、ウソ、きゃあッ」
乳房の芯をきゅうと絞り、先を割るように爪を立てると、高く声を上げた。
「ん……ッ」
「声気にすんな。下二軒は誰も住んでねえ、隣は俺の部屋だし」
手の甲を口元に当てた鶴姫に囁くが、イヤイヤと首を振る。
啼かぬなら……ここはかの大猿に賛成である。
元親は鶴姫を背中から抱いたまま、片手をするすると下へ伸ばした。なだらかな柔らかい腹をくだり、下着の裾から潜りこむ。
「あっ」
「なあ、上も下もピンクでひらひらで可愛い下着な。俺のため?」
「……ッ」
「今日、最初から俺に抱かれるつもりで研究室まで来てくれた?」
「ちが、ちがいま、あッ!」
耳朶を食みながらの熱い囁きに反駁しようとした鶴姫は、元親の指の動きに腰を浮かせた。元親はそのまま、口唇を肩口から背筋、肩甲骨へと滑らせる。
「綺麗な背中だな」
ちゅ、ちゅ、と啄み、可愛らしいことを呟きながらも、下着の中で蠢くその手は無遠慮だ。淡い茂みから暗がりの裂け目全体へ手のひらをかぶせ、じわじわと撫でさすっている。しっとりとした潤い、ぬるりとすべる滴りが嬉しい。
「鶴……」
※ 中略 ※
「向き変えるぞ」
「あ」
両肩を抱いて引っくり返し、くるりと仰向けにする。
びっくりして見開いた焦げ茶の瞳が瞬いたかと思うと、鶴姫の顔が一気に茹で上がった。
「ええ!?」
「だって……ッ」
顔を隠してぷるぷるしている。
「駄目だ、こっち向け」
手をはずして首に回させれば、それには逆らわない。しかし真っ赤な顔で上目遣いにぱちぱち瞬いているところに、にいと笑ってやると慌てて目をぎゅうと瞑ってしまう。
「つーる?」
「だって……あッ」
その顔を窺いながら、ぺろりと乳首を舐めてやった。赤く立ち上がった花芯を吸い、ぐにぐにと甘噛みする。乳房に鼻先をすりつけてきつくきつく吸いついて回る。
「痛っ、あっ、元親さん」
そうやって右から左に移ったとき、元親の意識は激震した。
乳房の下に、星型の薄い紅色が――――
ゆっくりと倒れる姿。
白い巫女の小袖が、胸から朱に染まっていく。
硝煙の臭い。鉄錆の臭い。
鶴姫の左胸から中心に向かって入った銃弾は、心臓を貫通し、背骨に食い入って止まった。だから傷口はひとつだった。
死に顔は綺麗で、真っ白なそれは眠っているというより人形のようで――――
「つる、鶴の字」
『 泣かないで 』
「どうしたんですか、泣いてるの?」
柔らかな指が頬を撫でる。涙を拭ってくれる。
『 また、逢えます ―――― 』
「逢えてよかった」
「元親さん」
両眼からぱたぱたと落ちる涙が、鶴姫の白い胸に落ちる。
「鶴、好きだ。一緒に居てくれ」
「元親さん」
「もう俺を置いてくな」
「元親さん」
胸に顔を埋めるとあたたかい。優しい腕がぎゅうと抱き締めてくれた。
※ 中略 ※
元親は、暗がりで隻眼を薄く開けた。何時だろう。ああ、腹が減った。
双方懸命の『初体験』のち、元親は避妊具を始末し、箱ティッシュで何やらかにやらを手早く拭き取った。
息も絶え絶えの鶴姫を風呂に入れてやりたいがシャワーしかない。もうちょっと元気になってからでいいかと、とりあえずぐちゃぐちゃになったシーツの上にタオルを敷き、素っ裸のまま鶴姫を抱き寄せて布団をかぶった。
鶴姫は疲れきっていたのだろう。元親から降り注ぐ『可愛かった』と口づけとに照れて照れて、厚い胸板に顔を伏せているうちに、ことんと眠ってしまった。
その寝顔を眺め、こっそり肩や背中や尻を撫で、素肌の手触りにニヤニヤしていたところまでしか覚えてない。元親も鶴姫の静かな寝息に引き込まれてしまったのだろう。
夕方からの騒ぎだったから、まだ深夜ではないはずだ。夕飯を食べはぐれてしまった。
身支度して、鶴姫が元気なら車を出して何か食べに出てもいいし、無理だったら買って来ようか、いや、ラーメンくらいなら部屋にもあったような。しかし具になるものがないな、冷蔵庫には酒と水とツマミばっかりだ。
ぼんやりと考えていたら、左側がふっと明るくなった。見えない方の変化には過敏な気のある元親は、反射的に寝返りを打ってそちらを見上げた。
白い蓮華草。
鶴姫だ。ほっそりとした裸身をさらして、ベッドに座っている。
カーテンを開けて、見上げているのは月だ。元親の闇に慣れた目には目映すぎて、どんなかたちかはわからないが、白い、白い月。鶴姫にふわりとかかる透けた紗。とばり。月光。
白い蓮華草のような娘がそこにいた。
――――会いに来てくれたんだな。
そっと起き上がって、何より美しいものを見詰めた。
もう、涙はない。
ただあたたかい、湯のようにあたたかいものが胸に湧く。指先まで満たされてゆく。
――――ありがとな鶴の字。守ってやれなくてごめんな。
「鶴」
そっと呼びかけると、静かな瞳がこちらを向いた。ふわりと微笑んだようだ。
――――今度は、必ず。
「外から見えちまう。冷えるし」
布団を持ち上げて、腕を延べた。
「おいで」
すると、素直にするりと滑り込んでくる。くすくすと花弁のような笑みを溢すそれは、人のかたちをしたあたたかな花、元親の幸福だった。
「元親さん?」
ぎゅうと抱き締めると、笑いながら身じろぐ。素肌が触れ合って心地よい。安心する。
「からだ平気か?」
「はい」
ぎし、とベッドが軋んだ。会話が途絶え、口唇を合わせた密やかな音と、合間に小さな笑い声、男の低い囁き声とが、静かな夜の空気を甘く揺らす。
「あっ!?」
やがてそこに、小さな驚きの声が上がった。
「やっ……ちょ、ちょっと元親さん、あっ」
ごそごそと布団が蠢いている。中では元親が、鶴姫の胸に顔を埋め、すべすべした尻から太ももを撫でていた。
「……鶴、もう一回」
「は!?……きゃッ」
元親は布団をはね除けて身を起こす。鶴姫の両側に腕をついて、ぐっと顔を近づけた。
「あー、なんで我慢できたのかわかんねえや。な? もう一回」
声を抑え、深く笑みを含んでとびきり甘く囁いてやる。
「うっ」
鶴姫の眉がハの字になった。暗くてわからないが、たぶん赤面している。
「あの、お、おなかすきましたッ」
「あとで何か」
「だって、そしたら寝ちゃいますもんっ」
「……」
「おなかペコペコです……」
ハの字で憐れげに見上げられ、元親は折れた。その顔……それはずるくないか。
がくっと首を折り、しばし静止してから、がばっと立ち上がった。
「きゃあああ!」
前くらい隠して!と叫びながら両手で目をおおう鶴姫に構わず、脱ぎ捨てていた下着とカーゴパンツを履いた。歩きながらシャツをかぶり、財布と携帯をポケットに捩じ込んで玄関に立つ。
「シャワー使ってな。それと、ベッドの下の引き出し」
指差すと、鶴姫は素直に下を覗きこむ。それにしても、己のベッドで布団の端から裸の肩と膝を見せている鶴姫のその蠱惑的なことといったら……できるものなら今すぐ飛び掛かりたい。
「そこのタオルとかシャツとか、使っていいから」
言いながらもう靴を履いている。さっと行ってさっと戻ろう。
「元親さん」
「24時間スーパー。近所だ」
さっと食わせて。そして。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい」
むずがゆい会話に笑い、ドアを開けて廊下に出る。鍵を閉めてから階段を降りると、アパートの影から明るい白が顔を覗かせた。冴えた藍色の夜空に貼りついた、半分に切ったカマボコみたいな半月だった。今度ははっきりと形がわかる。
―――――家康に思いくそノロけてやろう。
思いついて、笑った。胸に、悲しいことが何もなかった。初めて、胸の底まで新しい空気が入ったような心地だった。
《終わる》