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ちか と つる

「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。

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喫茶店を営む元就さん・鶴ちゃん兄妹と、そこに下宿するアニキのなんてこともない日常話。シリーズ化したいと思ってるんですが、すごいまったりとした歩みの予感;
今はお題を終わらせるべく頑張ってます!(`・ω・´)

≪ 喫茶 日輪 ≫ しずくいし
 駅から徒歩5分。
 高いビルが立ち並び車通りの激しい表通りから一本奥に入っただけで、辺りの様子は一変する。
 一般住宅と二階建ての古びたアパートが軒を並べ、何が入っているのかよく分からない雑居ビルが点在している。明確なのはラーメン屋と高齢女性向けのブティックくらいか。少し歩くと滑り台だけの小さな公園がひょっこり現れ、そしてまた何事もなかったように住宅の列が始まる。
 そんなどこか前時代的な街並みに溶け込むようにひっそりと佇む、一軒の喫茶店があった。
 建てられた当初は真っ白だったのだろう外壁も、長い年月を雨風に晒され、ちょっとやそっと洗ったくらいでは落ちない汚れを纏っている。しかし木製のドアと格子窓が温かみを、綺麗に磨かれたガラスや軒下に置かれた手入れの行き届いた植木が清潔感を感じさせ、古いながらも味のある店構えをしていた。
 庇に大書された「喫茶 日輪」という店名がまた渋い。
 ベルの音と共に中へ入ると、ダークブラウンの調度品で統一された落ち着いた空間が広がっている。古木のカウンターの向こうには、黒いエプロンをつけた物静かな店主。歳は20代半ばくらいだろうか、まだ若い。
 疎らに位置する天井から吊り下げられた電球と窓からの自然光が光源の少し薄暗い店内で、若草色のシャツが鮮やかに目に映った。
 前述した通り、店主である元就は良く言えば物静か、悪く言えば無愛想極まりない男だった。それでも客足が途絶えないのは、愛想の悪さを補って余りある味の良さにある。
 コーヒーは香り豊かでコクのある苦み、その奥に仄かな甘みが潜む逸品で、これを目当てに通う客は多い。料理も品数こそ多くはないが、どれもこだわりを感じさせるものばかりでハズレがない。
 そして元就のその必要以上に客に構わない姿勢は、自分の時間を静かに過ごしたい者にはかえって都合が良かった。
 音量を絞ったヒーリングミュージックがゆったりと流れる中、読書する者、勉強する者、仕事の段取りを進める者、皆それぞれの時間を過ごしている。これがこの店の基本スタイルだ。
 ただし、開店直後の一時間と夕方の数時間においては若干趣きが異なっていて、客層も微妙に違う。
 それは元就の妹・鶴姫が手伝いに入る時間帯と、概ねリンクしていた。


喫茶 日輪


 部屋を出ると咽返るような熱気に全身を包まれて、元親は顔を顰めた。エアコンは極力点けないようにしているので室内もそう涼しいわけではないが、夏の太陽に熱せられた外気との差はやはり歴然だ。
 欠伸をしながら鉄製の階段をよたよたと下り、自室の真下に位置する喫茶店のドアを開ける。
「いらっしゃ…あ、元親さんおはようございます!」
 涼しい空気と共に元親を出迎えた、鈴を転がすような澄んだ声が耳に心地良い。顔を上げると、そこにはセーラー服にピンクのエプロンをつけた鶴姫の明るい笑顔。現金なもので、暑さに萎びていた気持ちがそれだけで弾んだ。
「おう鶴の字、おはようさん」
「よしよし、今日はお寝坊さんしませんでしたね☆」
「ばっか、俺がいつ寝坊したよ」
「あら、昨日わたしが起こしに行ったら慌てて飛び起きてたじゃないですか」
「あ、あれは…ッ!」
 反論しかけて、止めた。昨日はクライアントとの打ち合わせに直行することになっていたので、いつもより遅く起きても問題なかったのだが――――寝坊ではないことを説明したところで、どのみち格好が悪い。

 身内同然の気安さからか、乗りかかるようにして自分を起こす鶴姫に動揺した、など。

 あまつさえ良からぬことを考えたとあっては、ばつも悪い。
 言葉尻を濁して早々にその話題を切り上げると、元親はモーニングのAセットを頼んで、定位置であるカウンターの端の席にそそくさと収まった。
 無言でこちらに一瞥をくれる元就の視線をいつも以上に冷たく感じるのは、恐らく気のせいではないだろう。


 元親が「喫茶 日輪」の二階の居住スペースに間借りするようになったのは三年前、大学を卒業してすぐのことだ。建築学科を出て建築士になるべく設計事務所への就職を決めた彼は、職場に近い駅周辺の物件を探して不動産屋を廻っていた。
 そんな折、高校時代の二年先輩である元就に、下宿の話を持ち掛けられたのだ。
 職場の最寄り駅まで三駅と通勤に便利で家賃も格安、喫茶店での朝食はタダとくれば飛びつかない手はない。破格の条件は、夜間の防犯対策に利用したい元就の思惑あってのことだったが、元親としてもそれに異存はなかった。泥棒の一人や二人、彼にとってはどうということもない。
 そして何より、この店には思い入れがあった。というのも、数年前に潰れてからは空き家になっていた毛利家所有のその店を、元就が改装してオープンすることになった際、図面を引いたのは誰あろう元親なのである。
 もちろん実際にはプロの建築士がおり、当時大学三年生で何の資格も持たない元親の図面は、クライアントの「こんな感じにしたい」という一案に過ぎなかったが、図面がほぼそのまま通ったこともあって、彼の中ではそれが記念すべき第一号作品という位置付けだった。
 モーニングセットを待つ間、店内を見渡せるいつもの席からぐるりと視線を巡らせてみる。
 落ち着いた色調とシンプルな造りは、元親の個人的な趣味とは少し――――大分違っていたが、客の評判は良い。賛辞はないが文句も言わないところを見ると、元就も納得しているようだ。
「ありがとうございましたー!」
 爽やかに客を送り出す鶴姫の後姿に、顔を綻ばせる。
 事ある毎に、彼女はこの店が好きだと言った。それは唯一の肉親である元就の夢を共有できる場所、という意味合いが強いのはわかっていたが、その一端を担えたことが元親は嬉しかった。
 ここへ越してきた当時はまだ幼い面が目立っていた鶴姫も、今や高校三年生。随分娘らしい表情や仕種を見せるようになった。
 それはここを訪れる客の眼差しにもよく現れていて、以前は大半が少女を見守る親戚のようだったそれが、今では一人の女として認識しているものがちらほらと混じり出している。
 現に今、レジに立つ鶴姫に若い男性客が何か小さな紙切れを渡すのを、元親は見逃さなかった。小さく舌打ちをして睨みを利かせるが、見え見えの好意を鶴姫へ一心に注いでいる男はまるで気付いていない。会計を終えたというのに、しきりに何事かを話しかけている。
 なかなか出て行こうとしない男に元親の苛々が頂点に達した頃、
「鶴」
 元就が鶴姫を呼んだ。
 囲い込むような男の視線から、鶴姫が解放される。振り向いたその表情が普段と変わらないのを見て取って、元親は安堵した。と同時に呆れもする。
 この娘は己へ向けられる異性の下心に鈍い。本当に鈍い。
 運ぶよう差し出されたモーニングセットに関心を移した鶴姫の背後で、名残惜しげなベルの音。ドアが閉まる。
 元親は肺腑に貯まった息をどっと吐き出した。まったく、何故朝っぱらからこんなに疲弊せねばならないのか。
「お待たせしました~」
 呑気な笑顔でモーニングセットを運んでくる鶴姫が恨めしくて、元親は横柄に空の掌を突き出した。
「ん」
「え?」
「さっき客から何か渡されたろ」
「ああ……何ですかね、まだ見てないんですけど」
 そう言ってエプロンのポケットから取り出したそれを、素早く奪い取る。
「あっ、ちょっと!」
「没収」
「まだ見てないんですってば!」
「心配すんな、俺が返事しといてやるよ」
「ええ?」
「それよりいいのかい?今日は早く出るんだろ?」
 壁の時計を示してやると、鶴姫はぴょこんと飛び上がった。
「わわっ、大変です!」
 外したエプロンを丸めながら慌てて奥に引っ込んでいくその頭からは、元親に奪われた紙切れのことはすっかり抜け落ちているようだ。してやったりの笑みを浮かべる元親の思惑に気付いた風もなく、程なくして鶴姫は鞄を手にバタバタと戻ってきた。
「ではいってきます!」
「気を付けて行くがよい」
「おう、転ぶなよ」
「もうっ、わたし子供じゃありません!」
 急いでいるというのに、くるりと体を反転していちいち反論してくるのが可笑しい。
 其処此処から上がる見送りの声には、笑顔と共に丁寧に一礼で返す。次いで勢い良くドアを開け、
「あっ」
 敷居に爪先を引っ掛け、思い切り蹴躓いた。
 一瞬店内がどよめくが、何とか踏み止まった看板娘は照れもあったのだろう、そのまま振り返ることなく駅の方へと駆けていった。
 元親がほっと息を吐き、浮きかけた腰をそろそろと下ろすと、同じような姿勢の客が何人か視界に入って苦笑する。放っておけない、そんな気にさせられるのは誰しも一緒ということか。
「ったく、危なっかしいよなぁ。………これといい」
 聞いているのかいないのか、相変わらず反応の薄い元就に話しかけながら小さく折りたたまれた紙切れを広げると、思った通りそこには名前とアドレス、そして連絡を待つ一言が書かれていた。
 胸の奥でざわざわと蠢くものがある。
 上手くいけば儲け物のナンパ感覚か、それとも募る想いが溢れ出した結果かは知りようもないが、こうして鶴姫にちょっかいを出す男を目の当たりにして、元親の胸中は想像以上の焦燥感に埋め尽くされた。
 ここへ来て三年。決して長い年月ではないが、様々な瞬間を共にしてきた。元就の次くらいには近い位置にいる自負もある。
 ただ、それが鶴姫に異性として意識されてのものであるかと問われれば、正直微妙なところであった。
「なぁ、ライターかマッチねえ?」
「うちは全席禁煙ぞ。あるわけがなかろう」
「ちぇー、しゃあねえ」
 とはいえ、手前勝手な理由で他人の淡い恋心を摘むのは、さすがに罪悪感がある。ライターかマッチがあれば、それも着火時の一瞬だけで、あとは炎が最後まで焼き尽くしてくれるのだが……。
 仕方ないこれも鶴の為ついでに俺の為、と心の中で唱えて、元親は書かれた文字が判別できないよう細かく紙切れを破り捨てていった。
 白い紙片が、季節外れの雪のようにハラハラと降り重なる。ゴミを散らかすなという元就の小言は聞こえないふりだ。
「というわけで、悪い虫は俺がきっちり始末しといたからよ♪」
「フン。しれっと自分だけは違うような顔をしておるが、我からすれば貴様も同じ穴の狢よ」
「なんでだよ、俺は違ぇだろーがお義兄さんよお!」
 調子に乗って嘯くと、くわっと見開いた絶対零度の視線が降ってきた。背筋が寒くなるとはこのことか。オニーサン瞳孔開イテマスヨ。
「………いや、まだ早ぇな。うん」
 思わず怯んだ元親はさっと目を逸らしもごもごと呟くと、コーヒーを口に運んで場を濁した。
 単なるその場逃れのつもりが、鼻の奥を抜けていく芳しい香りに期せずして和む。
 ――――やはり美味い。

 美味いコーヒーに美味い飯、そして人によっては幾ばくかの潤い。
 それらを求めて皆ここへ集まり、一日を乗り切るのに必要なエネルギーを補充していくのだろう。

 元親もまたそれに倣う為に、手元のクラブサンドに豪快に齧り付いた。

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