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ちか と つる

「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。

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≪ 花咲み ≫ しずくいし
「似合いますか?」
 不意に問われて振り向くと、そこには髪に椿を挿した鶴姫が立っていた。
 艶やかな焦げ茶の髪に、深緋の花弁と常盤色の葉がよく映えている。白磁の肌を薄桃に染めた頬が美しい。
 正直に答えるならば、似合っている、ただそう言えば良かった。
 けれど、元親はそれを飲み込んだ。
 椿は萼を残して花ごと散る為、首が落ちる様子を連想させるとして、縁起が悪いと嫌う者もいる。
 とはいえ、元親自身はむしろその散り際や潔しと思っていたくらいで、これまでそれを気にしたことはなかった。草花にあまり興味はないが、戯れに名前を挙げろと言われれば真っ先に思い浮かぶうちの一つだ。長曾我部の屋敷の中庭に植えられているのも、多少は影響しているかもしれない。
 ただ、それを鶴姫が髪に挿すとなると、少し意味合いが変わってくるように思えたのだ。
 先見の眼を持つ海神の巫女。
 本人があっけらかんとしているのでついつい見落としがちだが――――いや、だからこそ。特殊な環境で育った弊害か、時折信じられないような感情の欠落を見せる鶴姫の危うさが、元親は気が気でなかった。その度に普通の娘ではないことを思い知らされる。
 いつか己の知らないところで、呆気ないほど簡単に命を落とすのではないか。そんな不安に駆られることも少なくない、だから。

「……似合わねーな。全然似合ってねえよ」

 はっと息を呑んだ鶴姫の顔がくしゃりと歪み、羞恥と怒気に赤く染まる。
 俯いた彼女は、それでも涙は見せまいと唇を噛み締め、乱暴に髪に手をやった。
「ふんだ、海賊さんなんかに聞いたわたしがバカでした!」
 投げ付けられた椿が胸に当たり、音もなく地面に落ちる。
 走り去っていく小さな後姿が見えなくなるまでその場に立ち尽くして、やがて元親は苦い苦い溜息を吐いた。
 こちらを見上げた少女の、期待に満ちた眼差しを思い出す。そこに混じった好意の色も。欲しくて堪らなかったそれを、自らふいにしたのだ。
 何より彼女を酷く傷付けた。
 でもどうしても、認めたくなかった。重なる印象を打ち消したかった。
 落ちた椿に、のろのろと手を伸ばす。

 ――――散らせたのは、俺か。

 柔らかな花弁が掠めた辺りがじくじくと痛んで、元親は眉を顰めた。





 それから何日か経って、元親は何の予告もなくふらりと伊予河野を訪れた。
 右手にいつもの巨大な碇槍、左手に一枝の花を無造作に携えたそのちぐはぐな出で立ちに鶴姫の側近たちが目を瞠ったが、本人は気にした風もなく堂々としたものだ。
 そして座敷に通された元親は、鶴姫が姿を見せるなりその眼前に左手のものを突き出した。
「な」
「あんたにゃ、こっちのが似合う!」
 驚く鶴姫の言葉尻を奪って示したのは、鮮やかな黄色の五弁花が可愛らしい一重咲きの山吹。おずおずと伸びた白い手がそれを受け取り、視線が花に落ちるのを元親は固唾を飲んで見つめた。
 間髪容れず切り出したのは、出会いしなの鶴姫の表情を見るのが怖かったからかもしれない。
 もし、自分のせいで暗く沈んでいたら?
 あるいは逆に、全く気にも留めていなかったら?
 傷付けたくない、けれど気にして欲しい。相反する願いが交錯して元親を苛む。

 ――――クソ、情けねぇな………男の中の男がよう。

 恐れを知らぬ振る舞いで戦場を揚々と駆ける西海の鬼も、色恋ばかりは分が悪いようだ。早く何か言ってくれと、未だ反応のない鶴姫に祈るように目を向けた。
「……どうして、この花を?」
 そしてようやくぽつりと零れた呟きに取り付く島を見て、元親は待ってましたとばかりに得意満面の笑みを浮かべてこう答えた。
「いいかい、山吹ってのぁなんせ丈夫だ!寒さにも暑さにも強えし、虫もつきにくいんだぜ、すげえだろ!」
「………………」
 気のせいだろうか。心なしか温度が下がったような………。
「~~~ッわたし分かります!馬鹿にしているのでしょう、悪い口!」
「ああ!?なんでそうなる!」
「だって丈夫なだけが取り柄みたいに海賊さんが言うか、ら!?」
 怒りに眉を吊り上げ詰め寄った鶴姫が、円座で足を滑らせつんのめる。それを受け止めようとした元親もまた別の円座に足を取られ、二人は畳の上に派手に倒れ込んだ。
 普通であれば誰かすっ飛んできそうなものだが、この二人の取っ組み合いの喧嘩など珍しくもないせいか、社の中は静かなものだ。
 鳥の囀りが聞こえる。
 障子紙越しに差し込む柔らかな光は、畳を仄白く照らして。そのぼんやりとした光の中で元親の上に重なるように倒れ込んでいた鶴姫が、小さく呻きながら顔を上げた。
 謝罪の言葉を口にしかけて、思った以上に近いその距離に見開かれる琥珀色。
 視線の先の隻眼は、真っ直ぐに鶴姫へと向いていた。

「俺はただ、あんたに生きてて欲しいだけだ」

 触れ合った体を通じて、声が直に伝わる。果たして心まで伝わっただろうか。
 みるみる赤く染まっていく頬に導かれるままに、元親は半身を起こして柔らかなそれに左手を添えた。
「………海賊さんは」
「うン?」
「海賊さんは椿と山吹、どっちが好き?」
「そうだなァ……」
 囁くように吐かれた問いに、申し訳程度に考える素振りを見せる。だがすぐに横に落ちていた山吹をついと持ち上げ、歯を剥き出して笑った。
「俺ぁ、こっちのが好きだ」
 花が咲いたよう、とはこのことか。
 ふわりと周りの空気まで明るく染め替えるような、はにかみ混じりの可憐な笑みに胸を衝かれて、元親は鶴姫をぎゅうと抱き込んだ。
「きゃあ!?」 
「こんにゃろ、やっと笑ったな?」
「は、離してください!」
「やーなこった」
 きゃーきゃーと騒ぐ華奢な身体を抱きすくめ、鼻腔を甘くくすぐる鶴姫の匂いを思い切り吸い込む。肺腑を満たすのは幸せな温もり。離すものかと、より一層強く抱き締めた。
 一向に緩む気配のない腕に諦めたか、鶴姫の身体から力が抜ける。もぞもぞと身動ぎして、大きな瞳が元親を見上げた。
「そういえば、山吹には八重咲きのもありますよね」
「あー、八重咲きはダメだ」
「なぜですか?」
「ありゃあ、実ができねえからな。困る」
「困る?」
「おう」
「誰が?」
「俺が」
「海賊さんが?どうして?」
「さぁ、なんでだろうな」
「むー、さっぱり分かりません!」
「ま、おいおい説明してやるよ」
「今じゃダメなんですか?」
「俺は別に今でもいいけどよ。………いいのか?」
「え?え?」
 元親が纏う空気の変化を敏感に感じ取ったか、鶴姫が緊張に身を硬くする。徐々に近付いてくる、綺麗だが粗野な表情を浮かべる顔を必死に両手で突っ撥ね、再び猛然と脱出を試み始めた。
「ややややっぱりいいです!」
「なんだよ遠慮すんなよ」
「遠慮じゃありませんってきゃああどこ触ってるんですかバカー!」

 どたばたと暴れる二人の横で、天鵞絨のような深い光沢を持つ花弁が穏やかに光を弾く。
 生きろと言った男の想いを内に秘めたその花は、確かに少女の笑顔に似ていた。

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