ちか と つる
「おおだま」と「しずくいし」による、『戦国BASARA』のチカツルについてあれこれ語ったり、二次創作したりするブログです。NLオンリー。腐はどこを探してもありません。
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放置しすぎてすみませんm(_ _)m
未だにチカツル熱は熱く燃え滾っておりますが、ツイッタで呟いて満足してしまうことが多くてこっちを忘れておりました(^^;)
シブに出してブログにアップしてなかったチカツル文が幾つかあるので、久々に更新しまーす。
≪ 芽生え ≫ しずくいし
未だにチカツル熱は熱く燃え滾っておりますが、ツイッタで呟いて満足してしまうことが多くてこっちを忘れておりました(^^;)
シブに出してブログにアップしてなかったチカツル文が幾つかあるので、久々に更新しまーす。
≪ 芽生え ≫ しずくいし
鶴姫を探して元親が浜辺に下りると、ちょうど忍装束に身を包んだ赤毛の男の姿が、漆黒の羽を名残に掻き消えるところだった。
「あ、待ってください宵闇の…っ!」
追い縋るように手を伸ばした少女は宛所を失い、やがて半端に残った腕をそろそろと下ろす。
俯けた顔から表情は読み取れないが、小さく溜息が零れたのが肩の動きで分かった。衝動的に一歩踏み出す。
しかし次の瞬間にはもう強い意志を宿した瞳が前を向いていて、元親は己の内に眠る煉獄の炎に包まれた剣が、すっと鞘から抜かれるのを感じた。
「鶴の字」
「海賊さん!?み、見てたんですか!?」
「……悪ぃな。そんなつもりはなかったんだが」
「ふーんだ、どうせまた笑い者にするつもりなんでしょう」
剥れる少女の向こうで、豊かな水を湛える海が陽光を受けて煌いている。
息を吸えば、体に浸透する潮の香り。
慣れ親しんだそれらに意識を向けることで、燻る炎を必死で抑えつけた。
『お前、見込みねぇよ。諦めろって』
本当はこの熱の塊ごと、そう吐き出してしまいたかった。
少女の心に傷を付けたかった。
そして叶わぬ恋など捨て、こちらを見ればいいと――――
それでもぐっと踏み留まったのは、翳した剣が片刃ではないのを知っていたから。それは振るう己も同様に傷つける。
「俺にしときゃ、良かったのにな」
「………え?」
少し色素の薄い琥珀色の瞳が、物問いたげに見上げてくる。そこには特段の感情は見当たらなかった。
聞こえなかったのか、分かっていないのか――――どちらにせよ、届いていないのなら何の意味もない。
打ち寄せる波の音が耳に痛い。
足元を横切る鳥の影に別の姿を見て、きつく目を閉じた。もう沢山だ。
艶やかな焦げ茶の頭をくしゃりと撫で、元親は踵を返した。
一夜明けて、伊予河野。
鳥の囀りが朝の清浄な空気に花を添える。
海神の巫女を擁する霊験あらたかな場でありながら、その土地柄ゆえかどことなく長閑な雰囲気を纏う伊予河野の社だが、ここ数日は来週の厳島訪問に向けて忙しく準備を進める者達の喧騒で溢れていた。
そんな中、周囲の騒ぎにも上の空で一人物思いに耽っている少女――――鶴姫だ。
『俺にしときゃ、良かったのにな』
あの時元親が一瞬浮かべた、消え入りそうな曖昧な笑みが脳裏に焼きついて離れない。
いや、あれは笑みだったのだろうか。泣いているようにも見えなかったか。
そしてぽつりと零された言葉の意味を考える。
すぐには分からなかったけれど、でもあの状況であの言葉……そういう、ことなのだろうか。
――――海賊さんが?わたしを?
俄かには信じられなかった。
だって、いつもあんなに喧嘩ばかりしていたのに。意地悪なことを言って少女を困らせてばかりいたのに。
けれど。
浅葱色の瞳の奥は、いつも優しかった。
向かい合って思い切り騒ぐ、自分を解放する、あのひと時は鶴姫にとって何物にも代え難い時間だった。
分かっている、自分はあの男を嫌いではない。
別れ際、頭に置かれた大きな手の感触を思い出した。
――――ああ、どうしよう。
訳も分からず、ただ胸がきゅうと痛い。
苦しくて堪らなくて、胸元の合わせ目を両手で強く掴んだ。
「……ぜ、姫御前」
「あ……え?」
「元親は如何でしょう?」
「ええっ!?」
突然耳に飛び込んできた名前に、鶴姫は仰天して飛び上がった。
いつから彼は人の心を読む術を身に付けたのだろう。
「いえ、ですから。毛利殿は大の餅好きと聞きますから、手土産は餅とかは如何でしょう、と」
「…………も、ち」
「はい、餅」
「そ……そうですね……良いと思います」
「では手配いたします」
心の蔵が早鐘を打つのを感じながら、鶴姫は大きく息を吐いた。
まったく集中できていない。何も手に付かない。
これでは預言の精度にも障りが出るだろう。
――――よし。
一度思い立ってしまえば、決断は早かった。
雑念を振り払うように、すっくと立ち上がる。
「ちょっと出かけてきます」
「え!?ひ、姫御前!?」
珍しく慌てた風の副官の呼び掛けに「夜には戻ります」と残し、座敷を後にした。
廊下を足早に歩きながら、もう一度心の蔵の上あたりをぎゅっと握り締める。
見上げた空は雲一つない快晴。心の中もあんな風になればいい。
胸のもやもやを払拭すべく、向かう先はただ一つ――――
元親が鶴姫来訪の知らせを聞いたのは、昼餉の後に始めた槍術の鍛錬をそろそろ切り上げようかという頃だった。
こめかみを伝い落ちる汗を手の甲でぐいと拭い、しばし立ち尽くす。
昨日の今日だ、若干の気まずさは拭えない。しかし別れ際の鶴姫のあの様子では、恐らく何も気付いていないだろう。なるべくいつも通り振舞えば、問題はないはずだ。
とりあえず客間に通すよう郎党に指示し、元親は手拭いを片手に濡れ縁へどっかと腰掛けた。
吹き抜ける海風が火照った体に心地良い。瞳を閉じ、風が髪を揺らす感触にしばし身を任せる。
そうして胸の奥で不穏な火種が鎮まるのを、じっと待った。
客間に入ると、鶴姫が座布団の上に姿勢良くちょこんと座っていた。
お供の姿は見当たらない。どうやら伊予河野軍の大将としての用向きではないようだ。
「いよぉ鶴の字、また勝負ごとか?」
何でも受けて立つぜ、と挑発的に笑んでみせるが、思うような反応は返らなかった。
鶴姫は座したまま、少し困ったような顔をしてまじまじとこちらを見つめている。
「……俺の顔になんかついてるか?」
「海賊さん……泣いてないですね」
「なんでぇ、藪から棒に」
何の脈絡もなく飛び出した指摘に眉を顰めるが、鶴姫は至って真面目に言っているようだった。先ほどからの表情を保ったまま、何事かを考え込んでいる。
まさか「鬼の目にも涙」とか、ことわざ的なことを真に受けてわざわざやって来たんじゃあるまいな、と心配になる。
この尋常でない世間知らずなら、十分にあり得る話だった。
「わたし、海賊さんと勝負するの好きですよ」
「勝負、ね……」
また話が飛んだ。
この際細かいことはさて置くとして、しかし勝負に限定された好意の吐露に苦々しい思いで元親は口元を歪めた。
無垢すぎる魂ゆえに、この娘は時折元親にとってひどく残酷なことを言う。
「でも、時々すごく困るんです」
「なんだよ」
半ば投げやりに続きを促すと、
「海賊さんといると、時々胸が痛くなるんです。きゅーって、苦しくなります」
「………え」
「こんな風になるのは生まれて初めてで、どうしたらいいか分かりません」
「そ…そうかよ」
思わぬ爆弾の投下に不意打ちを喰らい、元親は右手で口元を覆った。顔が上気するのを止められない。
鶴姫自身は気付いていないようだが、これはどう考えたって――――
――――これだから箱入りの嬢ちゃんは厄介なんだ!とんでもない殺し文句を、自覚もなしにさらっと吐きやがる……!
「……海賊さん、なんだかニヤニヤして気持ち悪いです」
「うーるせぃ、全部お前のせいだろうが!」
「まぁ、悪い口!人のせいにするなんて男らしくありませんね!」
「ホントのこと言って何が悪ぃんだよ!お前のせいだお前のせいだお前のせいだーーーー!」
「むーっ、もう怒りましたよ!そんな悪い海賊さんは、わたしがドーンと成敗です☆」
通常運転に移行した二人の騒ぎが、屋敷中に木霊する。
耳を傾ける者たちの顔には「また始まった」と呆れ半分、微笑ましさ半分の微苦笑が浮かぶが、いつも通りに見える本人たちの内側では、これまでとは違う確かな変化が起こっていた。
いつしか根を張っていた、淡い想いの種。
今はまだ小さな芽だけれど、枯れないように手折られないように。
「お覚悟です!」
「しゃらくせぇ、返り討ちにしてやんぜ!」
いつかきっと花開くその時まで、大事に大事に育てていく。
「あ、待ってください宵闇の…っ!」
追い縋るように手を伸ばした少女は宛所を失い、やがて半端に残った腕をそろそろと下ろす。
俯けた顔から表情は読み取れないが、小さく溜息が零れたのが肩の動きで分かった。衝動的に一歩踏み出す。
しかし次の瞬間にはもう強い意志を宿した瞳が前を向いていて、元親は己の内に眠る煉獄の炎に包まれた剣が、すっと鞘から抜かれるのを感じた。
「鶴の字」
「海賊さん!?み、見てたんですか!?」
「……悪ぃな。そんなつもりはなかったんだが」
「ふーんだ、どうせまた笑い者にするつもりなんでしょう」
剥れる少女の向こうで、豊かな水を湛える海が陽光を受けて煌いている。
息を吸えば、体に浸透する潮の香り。
慣れ親しんだそれらに意識を向けることで、燻る炎を必死で抑えつけた。
『お前、見込みねぇよ。諦めろって』
本当はこの熱の塊ごと、そう吐き出してしまいたかった。
少女の心に傷を付けたかった。
そして叶わぬ恋など捨て、こちらを見ればいいと――――
それでもぐっと踏み留まったのは、翳した剣が片刃ではないのを知っていたから。それは振るう己も同様に傷つける。
「俺にしときゃ、良かったのにな」
「………え?」
少し色素の薄い琥珀色の瞳が、物問いたげに見上げてくる。そこには特段の感情は見当たらなかった。
聞こえなかったのか、分かっていないのか――――どちらにせよ、届いていないのなら何の意味もない。
打ち寄せる波の音が耳に痛い。
足元を横切る鳥の影に別の姿を見て、きつく目を閉じた。もう沢山だ。
艶やかな焦げ茶の頭をくしゃりと撫で、元親は踵を返した。
一夜明けて、伊予河野。
鳥の囀りが朝の清浄な空気に花を添える。
海神の巫女を擁する霊験あらたかな場でありながら、その土地柄ゆえかどことなく長閑な雰囲気を纏う伊予河野の社だが、ここ数日は来週の厳島訪問に向けて忙しく準備を進める者達の喧騒で溢れていた。
そんな中、周囲の騒ぎにも上の空で一人物思いに耽っている少女――――鶴姫だ。
『俺にしときゃ、良かったのにな』
あの時元親が一瞬浮かべた、消え入りそうな曖昧な笑みが脳裏に焼きついて離れない。
いや、あれは笑みだったのだろうか。泣いているようにも見えなかったか。
そしてぽつりと零された言葉の意味を考える。
すぐには分からなかったけれど、でもあの状況であの言葉……そういう、ことなのだろうか。
――――海賊さんが?わたしを?
俄かには信じられなかった。
だって、いつもあんなに喧嘩ばかりしていたのに。意地悪なことを言って少女を困らせてばかりいたのに。
けれど。
浅葱色の瞳の奥は、いつも優しかった。
向かい合って思い切り騒ぐ、自分を解放する、あのひと時は鶴姫にとって何物にも代え難い時間だった。
分かっている、自分はあの男を嫌いではない。
別れ際、頭に置かれた大きな手の感触を思い出した。
――――ああ、どうしよう。
訳も分からず、ただ胸がきゅうと痛い。
苦しくて堪らなくて、胸元の合わせ目を両手で強く掴んだ。
「……ぜ、姫御前」
「あ……え?」
「元親は如何でしょう?」
「ええっ!?」
突然耳に飛び込んできた名前に、鶴姫は仰天して飛び上がった。
いつから彼は人の心を読む術を身に付けたのだろう。
「いえ、ですから。毛利殿は大の餅好きと聞きますから、手土産は餅とかは如何でしょう、と」
「…………も、ち」
「はい、餅」
「そ……そうですね……良いと思います」
「では手配いたします」
心の蔵が早鐘を打つのを感じながら、鶴姫は大きく息を吐いた。
まったく集中できていない。何も手に付かない。
これでは預言の精度にも障りが出るだろう。
――――よし。
一度思い立ってしまえば、決断は早かった。
雑念を振り払うように、すっくと立ち上がる。
「ちょっと出かけてきます」
「え!?ひ、姫御前!?」
珍しく慌てた風の副官の呼び掛けに「夜には戻ります」と残し、座敷を後にした。
廊下を足早に歩きながら、もう一度心の蔵の上あたりをぎゅっと握り締める。
見上げた空は雲一つない快晴。心の中もあんな風になればいい。
胸のもやもやを払拭すべく、向かう先はただ一つ――――
元親が鶴姫来訪の知らせを聞いたのは、昼餉の後に始めた槍術の鍛錬をそろそろ切り上げようかという頃だった。
こめかみを伝い落ちる汗を手の甲でぐいと拭い、しばし立ち尽くす。
昨日の今日だ、若干の気まずさは拭えない。しかし別れ際の鶴姫のあの様子では、恐らく何も気付いていないだろう。なるべくいつも通り振舞えば、問題はないはずだ。
とりあえず客間に通すよう郎党に指示し、元親は手拭いを片手に濡れ縁へどっかと腰掛けた。
吹き抜ける海風が火照った体に心地良い。瞳を閉じ、風が髪を揺らす感触にしばし身を任せる。
そうして胸の奥で不穏な火種が鎮まるのを、じっと待った。
客間に入ると、鶴姫が座布団の上に姿勢良くちょこんと座っていた。
お供の姿は見当たらない。どうやら伊予河野軍の大将としての用向きではないようだ。
「いよぉ鶴の字、また勝負ごとか?」
何でも受けて立つぜ、と挑発的に笑んでみせるが、思うような反応は返らなかった。
鶴姫は座したまま、少し困ったような顔をしてまじまじとこちらを見つめている。
「……俺の顔になんかついてるか?」
「海賊さん……泣いてないですね」
「なんでぇ、藪から棒に」
何の脈絡もなく飛び出した指摘に眉を顰めるが、鶴姫は至って真面目に言っているようだった。先ほどからの表情を保ったまま、何事かを考え込んでいる。
まさか「鬼の目にも涙」とか、ことわざ的なことを真に受けてわざわざやって来たんじゃあるまいな、と心配になる。
この尋常でない世間知らずなら、十分にあり得る話だった。
「わたし、海賊さんと勝負するの好きですよ」
「勝負、ね……」
また話が飛んだ。
この際細かいことはさて置くとして、しかし勝負に限定された好意の吐露に苦々しい思いで元親は口元を歪めた。
無垢すぎる魂ゆえに、この娘は時折元親にとってひどく残酷なことを言う。
「でも、時々すごく困るんです」
「なんだよ」
半ば投げやりに続きを促すと、
「海賊さんといると、時々胸が痛くなるんです。きゅーって、苦しくなります」
「………え」
「こんな風になるのは生まれて初めてで、どうしたらいいか分かりません」
「そ…そうかよ」
思わぬ爆弾の投下に不意打ちを喰らい、元親は右手で口元を覆った。顔が上気するのを止められない。
鶴姫自身は気付いていないようだが、これはどう考えたって――――
――――これだから箱入りの嬢ちゃんは厄介なんだ!とんでもない殺し文句を、自覚もなしにさらっと吐きやがる……!
「……海賊さん、なんだかニヤニヤして気持ち悪いです」
「うーるせぃ、全部お前のせいだろうが!」
「まぁ、悪い口!人のせいにするなんて男らしくありませんね!」
「ホントのこと言って何が悪ぃんだよ!お前のせいだお前のせいだお前のせいだーーーー!」
「むーっ、もう怒りましたよ!そんな悪い海賊さんは、わたしがドーンと成敗です☆」
通常運転に移行した二人の騒ぎが、屋敷中に木霊する。
耳を傾ける者たちの顔には「また始まった」と呆れ半分、微笑ましさ半分の微苦笑が浮かぶが、いつも通りに見える本人たちの内側では、これまでとは違う確かな変化が起こっていた。
いつしか根を張っていた、淡い想いの種。
今はまだ小さな芽だけれど、枯れないように手折られないように。
「お覚悟です!」
「しゃらくせぇ、返り討ちにしてやんぜ!」
いつかきっと花開くその時まで、大事に大事に育てていく。
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